
新たな市場レジームを乗り切る
投資テーマ
インフレとの共存
中央銀行は速やかに政策を正常化し、金利は歴史的な低水準から上昇すると予想しています。米連邦準備理事会(FRB)はタカ派的なスタンスをとっているため、景気にブレーキをかけるリスクが高まるとみています。
インプリケーション:債券よりも株式を選好し、インフレ連動債をオ ーバーウエイトします。
混迷を切り抜ける
ウクライナ戦争はインフレ圧力を加速させ、中央銀行を窮地に追い込んでいます。インフレを抑制しようとすると、成長と雇用にコストがかかり、成長に与えるショックを緩和することができないと思われます。
インプリケーション:リスク・エクスポージャーを調整し、クレジットの代わりに株式を選好します。
ネットゼロへの航行
欧州がロシア産ガスから脱却することで、ネットゼロへの移行が加速すると考えます。ただ、世界のエネルギーシステムの再構築に伴い、短期的には、化石燃料の生産が増える地域も出てくるでしょう。
インプリケーション:新興国市場よりも先進国市場の株式を選好します。
新しい市場レジームへの移行
2021年末、ブラックロックは世界が新しい市場レジームに突入し、2年連続の債券リターンのマイナスと世界的な株高の予想を示しましたが、これは1977年のデータ開始以来初めてのことです。
債券は供給主導の高インフレに苦しみ、中央銀行はそれと共存することを余儀なくされると考えたからです。また、経済活動の再開と実質金利(インフレ調整後)の低下により、株式が好調に推移すると考えていました。そしてその後、多くの変化が起きました。
エネルギーショック、FRBが見通しの見直しに傾斜
FRBと他の主要中央銀行が予想以上に早く金利正常化に舵を切ったため、債券のリターンは想定以上のマイナスとなりました。これは、2021年末の中央銀行のガイダンスからの大きな変化と考えます。1-3月期に急上昇した長期債利回りはさらに上昇するとみられ、引き続き債券をアンダーウエイトとしています。投資家は債券の安全プレミアムに疑問を呈し始め、インフレ環境において債券を保有することに対し追加的な見返りを求めるでしょう。
世界株式 vs. 世界債券の年次リターン: 1977-2022年

過去の実績は、現在または将来の成果を示す信頼できる指標ではありません。インデックスは運用されておらず、手数料は含まれておりません。また、インデックスに直接投資することはできません。出所:日本経済新聞社、 Refinitiv Datastream、Bloombergのデータに基づき、BII作成。2022年3月時点。注記:グラフは、1977年から2021年までの世界の株式と債券の米ドルベースの年リターンを示しています。使用した指数は、株式がMSCI All-Country World指数(1988年以前はMSCI World)、債券がBloomberg Global Aggregate指数(1991年以前はUSA Aggregate)。
株式もマイナスのリターンとなっています(上図参照)。その理由は 中央銀行のタカ派的な軸足とウクライナにおける悲劇的な戦争です。ロシアの侵攻により、世界中に商品価格ショックが発生しました。欧米諸国がロシアの化石燃料からの脱却を目指す中、さらなる試練が待ち受けていると思われます。特に欧州では、2022年の成長率は低下し、インフレはより高く、より持続的になるとみています。
リスクは何か?
戦争は、エネルギー安全保障の推進に拍車をかけ、既にあった新型コロナショックに加えて、エネルギー供給ショックが起きました。結果として、より高く、より持続的なインフレが発生するでしょう。
FRBはインフレを抑制するため、今後2年間に大幅かつ迅速な利上げを行う予定です。厳しいことを口で言うのは簡単ですが、製造業のボトルネックやコモディティ価格の高騰など、供給主導で形成された世界では、金融政策は成長と雇用に高いコストをかけなければインフレを抑制することができないかもしれません。
しかし、FRBは依然として低い失業率を予測しています。これは、経済活動と雇用を維持するためにインフレと共存するという、FRBの真の意図を示していると考えています。
ではリスクは何でしょうか?中央銀行は、成長と雇用を破壊するレベルまで急速に金利を引き上げ、経済にブレーキをかける可能性があります。インフレ期待に歯止めがきかなくなる可能性もあります。市場や消費者は中央銀行が物価を抑制できると信じられなくなる可能性もあります。この可能性により最初のリスクはより現実的なものになります。
結論としては、FRBは正常化の準備が整っており、年内に大規模かつ急速な利上げを実施するとみられます。その後、FRB は成長への影響を評価するために一旦利上げを停止するでしょう。結果として、インフレ水準を考慮すると、利上げ幅は歴史的な低水準とどまると予想します。
アップグレードとダウングレード
ブラックロックは戦術的な観点からリスク選好を継続し、クレジットよりもエクイティを重視します。インフレの環境は株式にとって有利であり、多くの先進国企業はコスト上昇を吸収し、高い利幅を維持すると考えています。
米国10年債利回りは3年ぶりの高水準で推移していますが、国債の下振れリスクはより大きいとみています。先進国の国債は、現在のような供給ショックが支配的な時期には、ポートフォリオの分散にはあまり有効ではないと考えます。資産クラス内では、長期債よりも短 期債を選好します。
また、クレジットよりも株式を選好します。また、低水準の実質金利、活動再開による経済成長のクッション、バリュエーションが妥当であることが組み合わさり、好ましいと考えます。欧州の株式については、エネルギー・ショックの影響を最も強く受けるとみて、オーバーウェイトを縮小しています。株価も年初来安値から回復しています。ではなぜアンダーウエイトにシフトしないのでしょうか?欧州中央銀行の政策の正常化は緩やかなものにとどまるみているからです。日本株については、増配と自社株買いの見通しと政策による支援から、オーバーウェイトを引き上げます。米国株式市場は、クオリティ・ファクターが幅広い経済シナリオに耐性があるとみており選好しています。
クレジットや国債よりも株式を選好
ブラックロックは戦術的な観点で引き続きクレジットや国債よりも株式を選好します。インフレの環境では株式が好まれ、先進国企業の多くはコストの上昇を価格に転嫁し、高い利益率を維持できるとみています。
各資産クラスの見通し
各資産クラスの6~12カ月の戦術的見通しと確信の度合いに基づく世界の資産クラス全体に対する見方:2022年4月
資産クラス | 戦略的見通し | 戦術的見通し | コメント |
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株式 | 2022年初の急落で、戦略的に株式のオーバーウエイトを拡大しました。実質金利が低水準にとどまる中、堅調な経済成長が見込まれ、バリュエーションがより一層魅力的となったことを背景に、長期投資家が株式に追加投資する機会があるとみています。代表的な指数ではハイテクやヘルスケアなどのセクターのウェイトが大きいため、気候変動を期待リターンに組み入れることで、先進国株式の魅力が高まると考えます。戦術的には、新興国よりも先進国株を、欧州よりも米国と日本を選好します。 | ||
クレジット | 長期金利の上昇と割高なバリュエーションを背景に、戦略的・戦術的にクレジットをアンダーウエイトしています。代わりに株式でリスクを取ることを選好します。戦術的には、魅力的なバリュエーションと潜在的なイン カムを理由に、現地通貨建ての新興国債券のオーバーウエイトを維持します。リスク・プレミアムが大きいためインフレ・リスクを補うと考えます。 | ||
国債 | 名目国債は利回りが下限付近にあり、ポートフォリオの分散化機能が低下しているため、戦略的にアンダーウエイトしています。インフレと債務水準が上昇する中、投資家は国債の保有により高い対価を求めていると考えられます。その代わりにインフレ連動債を選好します。戦術的には、2022年に入って利回りは急上昇していますが、長期の利回りは上昇する方向にあるとみており、国債をアンダーウェイトとします。インフレ率の上昇局面では、ポートフォリオの分散のため、インフレ連動債を選好します。 | ||
プライべート市場 | - | プライベート・クレジットを含む非伝統的な資産のリターンの源泉には価値の向上や分散効果が見込まれます。中立の見通しは、大半の投資家が保有しているよりも大幅に高い配分をベースとしています。機関投資家の多くは流動性リスクを過大視し、プライベート市場への投資を過度に抑えているとみられます。なお、プライベート市場は複雑な資産クラスであり、すべての投資家に適した投資対象ではありません。 |
注記:上記の見通しは米ドルベースです。2022年4月時点。当資料は特定の時点における市場環境の評価を示すものであり、将来の出来事の予想または将来の成果の保証を意図したものではありません。読者は当資料中の情報に、特定のファンド、戦略あるいは証券に関するリサーチまたは投資アドバイスとして依拠すべきではありません。
本見通しでは広範な資産クラスと比較した個々の資産のパフォーマンスについて、ブラックロックがどのように考えているかを示しています。確信度は異なります。
各資産の戦術的見通し
各資産クラスの6~12カ月の戦術的見通しと確信の度合いに基づく世界の資産クラス全体に対する見方
地域 | 戦術的見通し | コメント | ||
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株式 | ||||
先進国市場 | 経済成長に追い風となるファンダメンタルズ、堅調な企業収益、低い金利を背景に、先進国株をオーバーウェイトしています。多くの先進国企業がインフレを背景に価格決定力の高さから好ましい立場にあるとみています。欧州より米国と日本を選好します。 | |||
米国 | 米国株式は、企業収益のモメンタムが依然強いため、オーバーウェイトとします。FRBのタカ派的な金利見通しを完全には実現できていないとみています。その中で、幅広い経済シナリオに耐性があるクオリティ・ファクターを選好します。 | |||
欧州 | エネルギーショックが欧州の経済成長に大きな打撃を与えると予想し、欧州株式のオーバーウエイトを縮小します。その中ではインフレを背景に同市場の景気循環銘柄を選好し、ECBによる金融政策の正常化ペースは緩慢なものになると予想しています。 | |||
英国 | 英国株式は中立。同市場は適正に評価されており、米国株や日本株など他の先進国株式を選好します。 | |||
日本 | 金融・財政政策が支援材料となり、配当と自社株買いの増加が見込まれるため、日本株式のオーバーウエイトを引き上げます。 | |||
中国 | 中国は全体として緩和的な政策に移行しているとみており、中国株の僅かなオーバーウェイトを維持します。中国とロシアの結びつきは地政学的なスティグマ(特定のグループに属するイメージを持たれること)のリスクとなり、一部の投資家に中国資産を避けるように圧力がかかる可能性があります。 | |||
新興国市場 | 新興国における経済活動の再開の動きはより困難を伴い、高いインフレ率、金融政策が引き締め方向であることを考慮し、新興国の株式を中立とし、先進国の株式を選好します。 | |||
日本除くアジア | 日本以外のアジア諸国の株式は中立。地域全体というよりも中国により絞ったエクスポージャーを選好します。 | |||
債券 | ||||
米国債券 | 2022年に入って利回りが急上昇している米国債をアンダーウェイトとします。投資家が国債の保有により高いプレミアムを求めて求めているため、長期債の利回りはさらに上昇するとみています。その代わりとして、年限の短い債券を選好します。 | |||
米物価連動国債 | インフレは持続的で、新型コロナ前よりも高い水準で落ち着くと考えているため、米国のインフレ連動債をオーバーウェイトしています。インフレ下の分散の役割の観点から選好します。 | |||
欧州の国債 | 欧州国債をアンダーウェイトとします。市場がマイナス金利の終了とその後を織り込み済みであるにもかかわらず、利回りはさらに上昇する傾向にあるとみています。 | |||
英国債 | 英国債は中立とします。供給が制約され、経済成長が鈍化する中で、市場の利上げ期待は行き過ぎとみています。 | |||
中国国債 | 中国国債をオーバーウェイトとします。金融政策が緩和的であることに加え、金利水準が比較的安定していること、そして潜在的なインカムが見込めることにより、中国国債の魅力は高いと考えます。 | |||
グローバル投資適格債 | スプレッドがタイトで、金利リスクがある中で、投資適格社債をアンダーウエイトしています。その代わりに、株式により価値があるとみています。 | |||
グローバル・ハイイールド債 | クレジットスプレッドの縮小は期待できないものの、潜在的なインカムは魅力的と考えます。リスクは株式で取ることを選好します。 | |||
新興国債券(ドル建て) | ドル建の新興国債券を中立としています。コモディティ価格の上昇が債券価格を下支えするとみていますが、米 国債の利回り上昇には引き続き脆弱と考えます。 | |||
新興国債券(現地通貨建て) | 魅力的なバリュエーションと潜在的なインカムから、現地通貨建ての新興国債券を小幅にオーバーウェイトしています。利回りの上昇はすでに新興国の金融引き締めを反映し ており、金利リスクを一部埋め合わせると考えます。 | |||
アジア債券 | アジア債券のオーバーウエイトを維持します。中国債券のバリュエーションはリスクに比して魅力的であると考えます。中国以外では、アジアのソブリンとクレジット のインカムを選好します。 |
過去のパフォーマンスは現在または将来の成果を示唆する信頼できる指標ではありません。指数に直接投資することはできません。
注記:見通しは米ドルベースです。2021年12月時点。当資料は特定の時点における市場環境の評価を示すものであり、将来の成果の予想あるいは保証を意図したものではありません。当資料中の情報は、特定のファンド、戦略あるいは証券に関する投資アドバイスとして依拠すべきものではありません。
エネルギー負担の増大
エネルギーショックは、ロシア産ガスに大きく依存する欧州の成長に最も大きな打撃を与えるとみています。欧州のエネルギー負担は米国の2倍以上です。

出所:BII、BP Statistical Review of World Energy 2021、Haver Analyticsのデータを使用、2022年3月。
注記:グラフは、EUと米国における石油、ガス、石炭の消費コストの対GDP比を示したものです。地域別のエネルギー価格を用い、米ドル建てGDPで割り算出しています。2022年のデータは、IMFの最新のGDP予測と日次の商品価格の年初来の平均に基づくものです。
中央銀行のタカ派的政策
FRBは利上げサイクルを開始するにあたり、驚くほどタカ派的なトーンを打ち出しました。FRBは自らを窮地に追い込んでしまった可能性があり、景気にブレーキをかけるリスクが高まっているとみています。

過去の実績は、現在または将来の成果を示す信頼できる指標ではありません。インデックスは運用されているものではなく、手数料を含みません。またインデックスに直接投資することはできません。
出所: BII、Haver Analytics、Refinitiv Datastreamのデータを使用、2022年3月。注記:図は、過去のFF金利、フォワードレートの翌日物金利スワップの現在および1年前の市場価格、また、緑のドットは、各年末の政策金利の水準に対するFRBの2022年3月時点における予測であり、ドットは中央値を示しています。
株式でリスクをとる
金利の先行きに 対するブラックロックの見方に照らしてみるとクレジットスプレッドは依然としてタイトで、この水準では、投資家はリスクに対して十分に見合わないと思われます。

過去の実績は、現在または将来の成果を示す信頼できる指標ではありません。インデックスは運用されておらず、手数料は含まれていません。また、インデックスに投資することはできません。
出所:BII、Refinitiv Datastream、2022年3月16日時点のデータ。注記:MSCIインデックスに基づく主要な地域の株式リスクプレミアムと1995年以降の過去のレンジ、ブルームバーグインデックスに基づく米国の投資適格市場とハイイールド市場のクレジットスプレッドを示したものです。株式リスクプレミアムは、名目金利の予想値と各株式市場のインプライド資本コストに基づいて算出しています。クレジットスプレッドは、クレジット市場の利回りと対応する国債の利回りとの差分をとって算出しています。
執筆者
重要事項
当レポートの記載内容は、ブラックロック・グループ(以下、ブラックロック)が作成した英語版レポートを、ブラックロック・ジャパン株式会社(以下、弊社)が翻訳・編集したものです。また当資料でご紹介する各資産の見通し(米ドル建て)は、米国人投資家などおもに米ドル建てで投資を行う投資家のための見通しとしてブラックロック・グループが作成したものであり、本邦投資家など日本円建てで投資を行う投資家の皆様を対象とした見通しではありません。 記載内容は、米ドル建て投資家を対象とした市場見通しの一例として、あくまでご参考情報としてご紹介することを目的とするものであり、特定の金融商品取引の勧誘を目的とするものではなく、また本邦投資家の皆様の知識、経験、リスク許容度、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的等を勘案したものではありません。記載内容はブラックロック及び弊社が信頼できると判断した資料・データ等により作成しましたが、その正確性および完全性について保証するものではありません。各種情報は過去のもの又は見通しであり、今後の運用成果を保証するものではなく、本情報を利用したことによって生じた損失等についてブラックロック及び弊社はその責任を負うものではありません。記載内容の市況や見通しは作成日現在のブラックロックの見解であり、今後の経済動向や市場環境の変化、あるいは金融取引手法の多様化に伴う変化に対応し予告なく変更される可能性があります。またブラックロックの見解、あるいはブラックロックが設定・運用するファンドにおける投資判断と必ずしも一致するものではありません。
MKTGH0422A/S-2164597