ラリー・フィンク:投資家への年次書簡(2023年)

音楽は私の人生の大きな部分を占めています。カリフォルニアで育った私は、少年の頃はよく地元のレコード店でビニール盤のアルバムを買い、レコードプレーヤーで聴いていました。今でもレコードを聴きますが、若い頃に比べれば頻度は減りました。今は音楽のストリーミングサービスを使うことで、特定のアーティストの曲をアルバム単位やベスト盤で聴くことができますし、自分や他のリスナーのプレイリストを聴くこともできます。指先一つで多くの選択肢の中から選べる時代になりました。

テクノロジーの進歩により、金融市場へのアクセスもより手頃にかつ身近になりました。40年前は、株式や債券を買うには証券会社に電話する必要があり、手間のかかる作業でした。また、投資家が支払う手数料は必ずしも明瞭ではありませんでした。それが今では、スマートフォンと証券会社の口座があれば、何万ものETFや投資信託、そして個別銘柄の購入が画面を数回タップすれば完了します。テクノロジーの発展は、預金者にも投資家にも、より多くの選択肢をもたらしました。テクノロジーをもってしても投資のリスクを取り除くことはできませんが(先週目の当たりにした出来事が示すように)、金融市場の透明性が向上したことで、より簡単にかつ安価に市場にアクセスすることができるようになりました。

ブラックロックのミッションは、より多くの人々に投資をもっと手軽にかつ安価に提供し、透明性を高めることで投資を分かりやすくすることです

ブラックロックは、お客様に対して受託者責任を負っています。弊社が運用する資金は、弊社を信頼して将来の備えのために資産の運用を委ねてくださっているお客様のものです。弊社は、お客様一人ひとりに対して、お客様の投資ガイドラインに則り、その範疇で最良のリスク調整後リターンを追求する受託者責任を負っています。弊社のビジネスモデルは非常に明瞭です。なぜなら、お客様に価値あるサービスを提供することが株主様への価値の創造につながっているからです。

お客様の資産運用をお手伝いするうえで、お客様の投資にとって重要な問題について発言することも必要です。私は長年、経営者が世界に対して発言することが重要であると信じ、そのようにお伝えしてきました。そして、今ほど私自身が発言をすることが重要だと思う時はありません。私はこれからもお客様や弊社にとって重要だと考えれば、時、場所を問わず発言するつもりです。

近年は毎年、お客様に代わり投資先企業の経営者の皆様に宛てた手紙と、ブラックロックの株主様に宛てた2通の書簡を書いてきました。昨年11月には、ブラックロックがVoting Choice(議決権行使に関する選択肢の提供)を導入した1周年の日に、CEOとお客様の双方に書簡をお送りし、Voting Choiceがもたらす変革の力について、私の見解をお伝えしました。

2023年が明け、ブラックロックの株主様、お客様、従業員、取引先、弊社が事業を行う地域社会、そしてお客様の投資先企業などあらゆるステークホルダーが明らかに非常に多くの共通した問題に直面しています。そのため今年、私は投資家に向けた1通の書簡をしたため、それをすべてのステークホルダーの方々に共有することにしました。

弊社の活動はお客様を中心に成り立っています。今日、お客様の投資目的や選好、投資期間、リスク許容度は多様であり、お客様が投資目標を達成できるよう弊社は幅広い選択肢を提供しています。そして、お客様の目的やガイドラインに沿って資産運用を行っています。

お客様から新たにお預かりした資金は、弊社CFOのマーティン・スモールが言うところの 「Unit of Trust(信頼の単位)」です。お客様が弊社に託してくださる、この信頼を非常に重く受け止めています。その信頼ゆえに、同業他社以上に多くのお客様から頼りにされていると思うと、身の引き締まる思いがします。他社[1]の多くが2022年に資金流出に見舞われる中、ブラックロックは米国だけで2,300億米ドル、グローバルでは約4,000億米ドルの新たな長期投資資金を受託しました。弊社がお客様に提供する幅広い選択肢、助言、長期の投資パフォーマンスの実績、そして高い受託者責任の水準に対してお客様から強い支持をいただけたことが、業界をリードする業績の達成につながったと考えています。

2022年は、数十年ぶりに株式と債券のリターンがともにマイナスとなり、市場環境は最も厳しい年の一つとなりました。この困難な状況は2023年に入っても続いていますが、こうした状況下、弊社の従業員は、それぞれのお客様が求める目標やニーズに沿った成果を達成できるよう引き続き尽力しています。

弊社がお客様の資金をどのように運用すべきかについて、多くの人が様々な意見を持っています。しかし、この資金は彼らのものではなく、弊社のものでもありません。それはお客様の資金であり、弊社はお客様に対し責任と義務を負っています。

ブラックロックにとって、投資家に選択肢を提供することが今日ほど重要であったことはありません。なぜなら、弊社が現在サービスを提供している投資家層は、かつてないほど多様で幅広いためです。米国や欧州などの異なる地域はもとより、米国内でも意見の相違がみられます。ブラックロックのようにグローバルに事業を展開する資産運用会社にとって、こうした意見の相違は難しい問題を生み出します。しかし、こうした環境にあっても弊社が提供する幅広いサービスやグローバルな視点と知見、そしてお客様のご意向を常に中心に据えるアプローチがブラックロックの最大の強みであると確信しています。

ブラックロックは、より多くのお客様に信頼されて成長し、その結果、お客様と株主様によりよい成果をお届けしてきました。ブラックロックが持つスケールメリットは、お客様への選択肢を増やすだけでなく、経費率の低減、証券取引時のビッド・アスク・スプレッドの縮小、幅広いサービス・プロバイダーとの関係などを通して、経済的効果をもたらしています。例えば、弊社のETF事業では、他のどのETFプロバイダーよりも多い1,300以上のETFを提供しています。そして2015年以降、iシェアーズETFは経費率の引き下げにより、投資家が負担するコストを6億米ドル近く削減しました2

コスト削減の効果を生み出しているのは、ETFだけではありません。例えば、米国で提供している投資信託とETFの資産加重平均の経費率は5年間で約35%3低下しており、弊社のスケールメリットや幅広い商品ラインナップがお客様に価値を提供していると考えています。お客様の手元により多くの利益が残れば、投資目標達成の後押しとなるでしょう。

同時に、弊社は十分な利益率を維持することで、株主様への価値提供に取り組んでいます。弊社のスケールメリット、テクノロジー、革新性は、オペレーショナル・エクセレンス(訳注:オペレーション能力の卓越が企業の優位性を高め、競争力の源泉となること)の改善とコスト削減に継続的に寄与しており、将来の成長を築く事業の投資に充てられています。

弊社は、スケールメリットを活かすとともに、ポートフォリオ・レベルで包括的な選択肢を提供することを主軸とする、受託者責任に根差したビジネスモデルを通じて株主様に成果を提供してきました。
ブラックロックは1999年の株式公開(IPO)以来7,700%というトータルリターンを達成しており、S&P500の金融サービスセクターの中で最もパフォーマンスの高い銘柄です4

ブラックロックのIPO以来のトータルリターン

ブラックロックのIPO以来のトータルリターン

出所:S&Pグローバル。パフォーマンスグラフは、将来のパフォーマンスを保証するものではありません。S&P US BMI Asset Management & Custody Banks Indexの構成銘柄については、巻末の重要事項をご参照ください。

ブラックロックのストーリー

2023年は創業35周年、株式公開から24年にあたる節目の年であり、80年代後半にはこのようなマイルストーンに到達することは想像すらできませんでした。当時と今では多くの事が変わりました(とはいえ、私は今も80年代に人気を博したバンド、Talk Talkの大ファンで、彼らは年を重ね、さらに良くなっていると感じています)。しかし、弊社の歩みを振り返ると数十年もの間、一貫して変わらないものがあります。

ブラックロックは資産運用会社であり、受託者です。弊社は、お客様に代わって資金を運用し、お客様やそのサービスを利用する方々が退職後の資金や住宅の購入費用、子供の教育資金の準備などといった経済的な目標を達成できるようお手伝いをしています。ブラックロックの従業員にとって、世界中の何百万人もの人々が経済的に豊かな生活を実現するための一助を我々が担っているということは非常に誇らしいことです。例えば、消防士や教師、その他の社会を支える人々が職責を全うし尊厳を持って退職するのをサポートすることができた、もしくは大学の学費などの教育資金の支払いについて家庭のストレスを軽減する一助を担うことができた、といった話を聞くと自分たちの仕事に誇りを感じます。

お客様の受託者である投資家として、ブラックロックの最も重要な仕事の一つは、お客様の投資に影響を及ぼす可能性がある世界経済の短期・長期のトレンドを見出すことです。ヘルスケア、テクノロジー、エネルギーなど、将来にわたり必要不可欠な分野を含むすべてのセクターにおいてこうしたトレンドの特定を行っています。

弊社のお客様は長期投資家が多いため、インフレ、地政学、エネルギー・トランジションなど、お客様のポートフォリオに影響を与えうるあらゆる長期投資リスクを評価しています。

世界中の投資家はブラックロックの独自の見解や助言、包括的な運用ソリューション、運用パフォーマンスのトラックレコードに加え、世界トップクラスの運用とテクノロジーを求めています。弊社は、資産価格に影響を及ぼす可能性のある事象について、我々の見解をお客様に提供し、絶え間なく変化する市場や産業界における道先案内の役割を担っています。弊社の揺るぎないコミットメントは、これまでもこれからもお客様の利益をいかなる時も最優先し、お客様のニーズに沿ったソリューションを提供することです

金融緩和の代償-ドミノ倒しは始まるのか

2008年の金融危機以降、市場は異例の積極的な財政・金融政策によって形成されてきました。こうした政策の結果、インフレ率が急激に上昇し、1980年代以来の水準に達しました。インフレに対抗するため、米連邦準備理事会(FRB)は過去1年間でおよそ500bpsの利上げを行いました。これは、長年にわたる金融緩和に対して、私たちが既に支払っている代償といえる事象の一つであり、これから倒れ始める最初のドミノでしょう。

世界の債券市場は昨年15%下落しましたが、それでも古い西部劇のセリフを借りると、「静かだ、静かすぎる」ように思えました。そして、1980年代以降で最も早いペースで利上げが行われ、金融システムの亀裂が露呈する中で、別の問題が浮上したのです。

先週は、米連邦規制当局がシリコンバレー銀行を差し押さえ、過去15年間で最大の銀行破綻が起こりました。これは典型的な資産と負債のミスマッチにより引き起こされたものです。同時期に規模が相対的に小さい銀行が新たに2行破綻しました。被害がどの程度広がっていくのか、全容はまだわかっていません。規制当局の対応は今のところ迅速で、断固たる措置が伝播リスクを食い止めることにつながっています。しかし、市場は依然として緊迫しています。資産・負債のミスマッチが第二のドミノ倒しとなるのでしょうか。

過去の金融引き締めサイクルにおいては、80年代から90年代初頭にかけて(米国で)起きた貯蓄貸付組合(S&L)危機や、1994年のカリフォルニア州オレンジ郡の破綻など、大規模な金融破綻を引き起こすことが幾度となくありました。S&L危機は、とどまることのない “徐々に侵食していく危機”でした。最終的には約10年間続き、1,000以上のS&Lが倒産しました。

金融緩和と規制変更の結果がS&L危機のように)米国の地方銀行セクター全体に波及しさらなる金融機関の差し押さえや閉鎖を引き起こすかはまだわかりません。

しかし、一部の銀行はバランスシートを補強するために融資を抑制せざるを得なくなると思います。また、銀行はより厳格な資本基準を求められるようになるでしょう。

長期的には、今回の銀行危機を機に、資本市場の果たす役割はより重要となっていくでしょう。銀行の融資がより制約を受ける可能性が高まる、もしくは顧客が銀行の資産と負債のミスマッチに懸念を抱くようになると、資金調達の際に資本市場に目を向ける人が増えると思われます。また、多くの企業の財務担当者は今、オーバーナイトのカウンターパーティリスクを軽減するために銀行預金をスイープ口座に移すことを考えていることでしょう。

さらに、第三のドミノが倒れる可能性もあります。デュレーションのミスマッチに加え、今度は流動性のミスマッチが起こるかもしれません。何年にもわたる低金利環境で、一部のアセットオーナーは低流動資産への投資割合を高め、流動性の低さと引き換えに高いリターンを追求するようになりました。 こうしたアセットオーナー、特にレバレッジの効いたポートフォリオを持っている場合には、足元では流動性のミスマッチのリスクが生じる可能性があります。

インフレが高止まりしているため、FRBはインフレ対策に重点を置き、利上げを継続するでしょう。金融システムは2008年当時より明らかに強化されていますが、ねじれ議会の状態にある米国では特に、政策立案者や規制当局が現在の危機に対処するために利用できる金融・財政政策のツールは限られています。

金利が上昇すれば、政府は最近の財政支出や過去数十年間に累積した債務の水準を維持することはできません。米国政府は2022年10-12月期には債務の利払いに過去最大となる2,130億米ドルを費やし、利払い額は前年同期比で630億米ドル増加しました5。英国では、昨年秋に財源の裏付けのない大規模な減税案が発表されると、英国債が急落しました。投資家が政府の財政規律に不信感を持つと、市場がいかに迅速に反応するかを目の当たりにした一件でした。

世界の経済成長は、何年にもわたって歴史的な水準の政府支出と低金利に支えられてきましたが、経済のさらなる成長と世界中の人々の生活水準の向上のために、今、民間セクターの力を必要としています。そのためには、政府と民間企業のリーダーの双方がこの必要性を認識し、民間セクターの潜在能力を引き出すために協働する必要があります。 

分断化が進む経済

金融市場でこうした劇的な変化が起きる中、世界経済の様相にも劇的な変化が起きています。そうした変化のすべてが、インフレをより長く高止まりさせる要因となるでしょう。

私は昨年の株主様への書簡の中で、ロシアのウクライナ侵攻の結果、2022年にはグローバリゼーションが重大な転換期を迎えると書きました。グローバリゼーション逆転の種は、欧州での戦争が勃発する随分前にまかれていました。2017年の書簡で、私はグローバリゼーションとテクノロジーの変化がいかに地域社会を分断し、労働者に影響を及ぼしているかを述べました。社会的な影響としては、ブレグジット、中東情勢の緊張、米国政治の二極化を挙げました。

新型コロナウィルスによる隔離はこの傾向を増幅させ、保護主義と二極化のさらなる拡大につながりました。対面での交流の欠如は、人類に多大な影響を及ぼしました。ビデオ会議は、直接会ったり、食事を共にしたりすることの代替にはなりえません。十数人のチームのリーダーであれ、多国籍企業の経営者であれ、地政学情勢の新たな展開に対峙する世界の大国のリーダーであれ、(リーダーにとって)人々とつながる能力が今ほど重要になったことはありません。

従業員は会社とつながりたいと思い、市民は政府を信じたいと望んでいますが、二極化と分断が進むことにより信頼は損なわれ、希望は失われています。

また、ここ数年の度重なるショックは、サプライチェーンを劇的に再構成しています。パンデミックにより、サプライチェーンに強靭さが求められることが浮き彫りになりました。ロシアのウクライナ侵攻と地政学的緊張の高まりを受けて、国家と経済の安全保障は最重要事項となりました。

食糧、エネルギー、半導体、そしてAIに至るまで、企業や国はいずれも、地政学による緊張の影響を受けにくいサプライチェーンの構築を模索しています。また、たとえ価格が上昇しても、必要な物資は自国の近くで調達したいという考え方も浸透しています。こうした変化は、従来と比べて統合されていない、より分断化された世界経済を生み出しています。官民のリーダーは、(サプライチェーンの)強靭さと国家安全保障と引き換えに、効率性の低下やコストの上昇を甘受しているのです。これは、公共政策としては理解できます。しかし、投資家は、この政策がどのようなリスクと投資機会を生み出すのかを認識することが重要です。

政府は、重要な部品の生産を自国内にとどめようとしており、製品の調達先や資本の配分先について、より大きな役割を果たすようになっています。これは、(従来のように)事業にとって最大の市場リターンをもたらす国・地域に必ずしも資本が配分されるとは限らないことを意味しています。

これにより、さらに強靭で安全なサプライチェーンが構築され、よりよい国家安全保障上の成果がもたらされるかもしれません。しかし、短期的には強いインフレ要因となるでしょう。安全保障と引き換えに物価上昇を甘受することでインフレ今後も継続し、長期間にわたり中央銀行はさらなるインフレ抑制に苦心するでしょう。結果として、今後数年間のインフレ率は3.5%4%に近い水準で推移する可能性が高いと考えています。

しかし、分断された新しい経済はインフレの高止まりのようなリスクだけではなく、同時に投資機会ももたらします。

私は、北米が世界で最も恩恵を受ける可能性があると考えています。北米には大規模かつ多様な労働力があります。天然資源が豊富なため、エネルギーと食糧における安全保障の確保を両立できる可能性があります。公共政策は半導体の製造を米国内にとどめるよう後押ししており、AI分野における最新のイノベーションは新たな関心事となっています。さらに他にも新たな成功例が出てくるでしょう。

老後生活に希望を持てる未来を築く

世界は老後の生活に関して「静かな危機」に直面していますが、メディアでそのことを見聞きすることは稀ですし、それが政治上のトピックになっている国もあまりありません。また、企業のトップがこの問題について議論することも少なくとも公の場では、ほぼありません。ニュースのヘッドラインを飾ることもなく、注目を集めることもないのは、それが喫緊の課題ではないからです。今年はおろか来年に迫った問題でもないのです。しかし、これは危機なのです。そして、この問題についての議論を遅らせるほど、危機はますます大きくなっていくでしょう。

市場の期待リターンの低下、老後の住宅費・医療費の増加、退職後の備えに対するリスクの個人への移転など、長寿化を支えることはかつてないほど困難になっています。

この危機に対処するためには、老後の生活の危機を引き起こしているいくつかの問題を、グローバルと自国内の両方の点から理解する必要があります。欧州、北米、中国、日本では、長寿化と出生率の低下により、高齢化が進んでいます。出生率は、米国で1.7、欧州で1.5、中国で1.2という史上最低水準まで低下しています。これは、それぞれの市場にとって長期的に大きな意味を持ちます。労働人口が減少し、所得の増加がより緩やかになるか、あるいは減少することになるでしょう。

国や企業は、「生産性の向上」を推し進める必要があります。この取り組みに成功する国は、長い健康寿命と高い労働参加率・生産性を誇る国でしょう。また、株主に対して持続的なリターンをもたらす企業は、十分な労働者を確保し労働者の生産性を高めることで、多くの顧客を確保することができる企業でしょう。

もう一つの課題は、なぜ老後の生活資金を効率よく貯蓄(将来に備えた投資も含む)している人とそうでない人がいるのかを理解することです。生活水準が高い国でも計画的に貯蓄をしていない人は多く、貯蓄していても老後のための投資をせず、緊急時の資金に回してしまう人が多いのです。また、国によっては預金口座には資金が多くあるものの、投資にお金を振り向けていない人が多いこともあります。投資せず銀行にお金を預けているだけでは、尊厳ある老後を送るために必要なリターンを得ることはできません。(経済的に)快適な老後生活を送るためには、預貯金を投資にまわし、数十年にわたって投資し続けることが必要です。資本市場が長期的な成長を通してリターンを創出すれば、その恩恵を受けることができるでしょう。

長期投資には、金融システムへの信頼と、明日は今日より良くなると思えること(希望)が必要です。今日、人々に希望を持つ理由を与え、明るい未来へのビジョンを明確に示すことのできるリーダーが求められています。そして、信頼される企業が必要なのです。新型コロナウィルス、欧州の戦争、政治の分極化、地政学的な分断、マクロ経済の変化などにより、我々はこの数年間で多くのものを失い、楽観的な見方や信頼、そしてよりよい未来への希望は薄れつつあります。

経済的な不安、次世代にどのような世界を引き継げるのかという不安、経済や政治を特徴づける「ポリクライシス」(訳注:世界規模の危機的事象がいくつも絡み合って複合的な影響を及ぼす状況)がどのように未来を形作るのかという不安など、現代には多くの不安があります。しかし、私は楽観主義者であり続けています。世界はこれまでにも大きな危機に直面してきました。私たちは問題に立ち向かい、よりよい未来を想像し、人々とつながり、イノベーションを起こすことで困難を乗り越えてきました。そして、今もまた同じように行動する必要があります。リーダーの役割は、困難に直面したときに、どのようにすれば機会(チャンス)を見出すことができるかを人々に示すことです。

未来への投資、希望と楽観の意思表示

ブラックロックが運用する資金の半分以上は、老後資金に関連するものです。そのため、そうした資金の準備をお手伝いすることは弊社の大きなテーマです。これから退職する人々をサポートするうえで、弊社は様々な市場で何が経済上の意思決定の背後にあるのかを理解し、長期的な資金の計画を立てようとしている人々に信頼されるパートナーになるにはどうすればよいかを理解する必要があると考えています。

人々は未来を信じ、金融機関や当局を信頼している場合にのみ投資をするでしょう。そうでなければお金をマットレスの下に隠しておいたり、一獲千金を狙ってリスクの高い資産に投資をしたりするでしょう。一方、人々は不安を感じると貯蓄はしても投資はしません。老後資金などをはじめ、経済的な目標を達成するための投資という行為は希望と楽観の意思表示であり、長期的な視点を持ち金融機関と市場を信頼することを示しています

本格的な不況とまではいかなくても、先行き不透明で経済が停滞する時期に差し掛かった今、希望の欠如は、貯蓄者を長期投資家にするための最大の障壁の一つかもしれません。昨年、世界各国で実施した調査で「5年後に自分の家族がより豊かになっていると思いますか?」という質問をしたところ、28カ国中24カ国で過去最低の回答結果となりました6

金融機関への信頼や将来への希望は、国によって大きく異なります。資本市場が長年にわたって大きな成功を収めてきた米国でさえ、株式市場に投資している米国人は58%に過ぎません7例えば、10年前にS&P500連動の投資商品に1,000米ドル投資していたら、3,000米ドル以上になっていました(1,000米ドルをブラックロックの株式に投資していたら、4,000米ドル以上になっていました)8。マットレスの下やコーヒーの空き缶に現金を置いておいた人は、インフレの影響で1,000米ドルの価値は目減りしてしまったことでしょう。それが投資の力なのです。ブラックロックの仕事は、投資をもっと手軽にかつ安価に提供し、透明性を高め分かりやすくすることで、より多くの人々が資本市場の力を享受できるようにすることです。

インターネットでの楽曲配信で音楽業界が大きく変わったように、人々の退職後の生活設計の仕方も大きく変わる必要があります。そのためには、各国・地域の市場、慣習、規制などを踏まえ独自のニーズに沿った方法で改革を行う必要があります。退職後の準備に関する危機に対処するグローバルな解決策はありません。ブラックロックは、世界中の多くの市場でお客様がどこにいてもストレスなく手頃な価格で市場にアクセスできる選択肢を用意し、投資への障壁を下げることに取り組んでいます。

2023年は、ブラックロックがLifePathという米国初のターゲット・デート・ファンドを設定してから30周年にあたります。ブラックロックが現在、LifePathターゲット・デート・ファンド・シリーズ全体で運用している資産は3,500億米ドルに上り、約4,000万人の米国人の退職資金をお預かりしています。2020年に米国市場向けに発表したソリューション「LifePath Paycheck」*は、退職後の受け取り開始時期から終身にわたってインカム(収入)を受け取れるように設計されています。総額200億米ドル以上のターゲット・デート・ファンドの資産と50万人以上の加入者を擁する11の大手の確定拠出年金(DC)プランスポンサーがブラックロックと協力して、従業員の退職プランのデフォルト商品として「LifePath Paycheck」を導入しました。また今年、ブラックロックは退職金制度からの恩恵を十分に受けることができない中小企業向けの401(k)プロバイダーである、Human Interest社に少数株主として出資しました。

ブラックロックは、ドイツでScalable Capital社やTrade Republic社などのオンライン販売会社を通じてETF積立プランを提供し、投資家がより簡単に市場にアクセスできるようにしています。また、フランスではBoursorama社と提携し、銀行の口座保有者が貯蓄を手軽に長期投資に回せるようにしています。また、他の多くの市場でも老後資金の課題に対処するため、各国・地域のニーズにあった投資ソリューションを提供する機会を探っています。

*日本での取り扱いはありません。

世界的なエネルギー移行期に将来を見据えたアドバイスを提供し、投資を支援するために

長期投資では、人口動態、政府の政策、技術革新、低炭素経済への移行など、リターンに影響を与えうる要因を長い視点で捉えることが必要です。短期的には、金融政策と財政政策がリターンの主な要因となるでしょう。一方、長期的には他の要因に加え、エネルギー移行が経済、資産価格、投資パフォーマンスにどのような影響を与えるかを考慮する必要があります。

ここ数年、弊社は気候変動リスクを投資リスクと捉えてきました。それは今も変わりません。カリフォルニアやフロリダ、パキスタン、欧州、オーストラリアなど世界中のさまざまな場所で起きている自然災害を見れば、気候変動の影響は誰の目にも明白でしょう。洪水や山火事、激しい嵐は増加しています。実際、生態系や経済において、影響を受けていない分野を見つけるほうが難しいでしょう。金融もこうした変化を免れることはできません。例えば、保険料は気象の変化に対応するために、すでに上昇し始めています。

ミュンヘン再保険によると、2022年に保険会社は自然災害に対して1,200億米ドルの補償という、かつては信じられないような額を必要としました9。これは保険価格を押し上げ、住宅所有者に大きな影響を与えます。中には保険をかけることができなくなる世帯も出てくるかもしれません。

気象変化の影響を受けにくい地域に人々が移転すれば、米国の住宅市場は大きく変化する可能性があります。沿岸地域、干ばつや山火事の影響を受ける地域からの流出を防ぐため、一部の政府は民間保険に補助金を出したり、民間の保険にとって代わったりしています。現在フロリダで補償を提供している洪水保険のほとんどは、米連邦政府の全国洪水保険プログラム(NFIP)によって引き受けられています。そのため、NFIPは米国財務省から資金を借り入れなければならず、現在205億米ドルの負債を抱えています10

低炭素経済への移行は、多くのお客様にとって最重要課題です。しかし、弊社のお客様の投資目的と考え方はお客様によって異なります。特定の移行プランに沿った投資や移行を加速させるための投資を希望されるお客様もいらっしゃいますし、そうでないお客様もいらっしゃいます。弊社は、お客様が投資目標を達成するための選択肢を提供し、お客様の目的とガイドラインに沿った資産運用を行っています。

政府の政策、技術革新、消費者の考え方の変化は、大きな投資機会を生み出すでしょう。弊社のお客様の中には、インフラ投資のような家計と経済の双方に利益をもたらす投資機会を活用したいと考える方もいらっしゃいます。

また、長期的な資産リターンに影響を与える可能性のあるサステナビリティの重要なリスク要因を投資判断に反映させるために、多くのお客様がデータへのアクセスを望んでいます。このため、弊社は他の会社とも提携し、気候変動や低炭素経済への移行が長期的にポートフォリオにどのような影響を与えるかについての知見をお客様に提供しています。こうしたお客様は、他の投資リスク要因を考慮するのと同様に炭素排出量削減への移行の影響を考慮しています。お客様は、炭素排出量の将来的な推移、政府の政策がこうした推移に与える影響、そしてそれが投資リスクと投資機会という点で何を意味するのかを理解するうえで弊社のサポートを求めています。経済活動における特定の結果を作り出す役割はブラックロックのような資産運用会社が担うものではなく、最終的な移行経路や移行時期も弊社には分かりません。脱炭素化のペースと規模は、政府の政策、技術革新、消費者の考え方の変化などが最終的に決定します。弊社の仕事は、さまざまなシナリオを考え抜いてモデル化し、お客様のポートフォリオへの影響を理解することです。

それゆえに、ブラックロックは近年、情報開示の必要性を強く主張し、企業がエネルギー移行をどのように進めていくのかについて質問を投げかけてきました。投資先企業の少数株主である弊社は、企業に指示を出す立場にありません。私の経営者の皆様に宛てた手紙の唯一の目的は、投資先の企業が弊社のお客様のために耐性のある長期的な投資リターンを生み出すように働きかけることです。

ブラックロックでは、データとアナリティクスを活用して、お客様がエネルギー移行の進展状況を理解するための材料を提供し、新たな投資機会への選択肢を提供しています。よりよいデータは不可欠です。現在、S&P500の構成銘柄の半数以上の企業がスコープ1およびスコープ2の排出量を自主的に報告しています。この数字は今後も増え続けるでしょう11。しかし、私がこれまで何年も一貫して述べてきたように政策を立て法律を制定するのは政府であり、資産運用会社を含む民間企業が環境問題を取り締まる警察のような存在となることはありません。

低炭素化への移行は、各国の政府が安価なエネルギーの安定供給に対するニーズを満たしつつ、秩序ある脱炭素化を進めるために制定する政策や法律を反映したものとなるでしょう。

移行は一直線に進むわけではありません。国や産業によって移行速度は異なりますが、石油・ガスはその過程で世界のエネルギー需要を満たすために重要な役割を果たすことになるでしょう。弊社のお客様の多くは、既存のエネルギー企業が移行期の変化に事業を適応させることで生まれる投資機会に注目しています。また、お客様はエネルギー安全保障とエネルギー移行を成功させるために、エネルギー会社が果たすべき重要な役割を認識しています。

弊社は、社会のエネルギー需要を満たすために不可欠なエネルギー会社と世界中で連携しています。移行期間中、手頃なエネルギー価格を維持するためにメタン排出を軽減するための措置を講じた天然ガスなどの化石燃料が今後何年にもわたって重要なエネルギー源であり続けるでしょう。ブラックロックは、お客様に代わって、責任を持って管理された天然ガスパイプラインへの投資も行っています。例えば、中東では天然ガスの最大規模のパイプラインに投資しており、これにより同地域の電力生産に使用する石油の量を減らすことができます。

各国政府は二酸化炭素排出量の削減を促進するため、より大きな措置を講じています。例えば、米国ではインフレ抑制法が制定され、投資家がエネルギー移行に資本を投下する大きな機会が生まれていると見ています。この法律では、エネルギー安全保障と気候変動緩和のための投資に推定3,690億米ドルが投入されます。これにより、二酸化炭素の回収やグリーン水素のような既存および新興技術への投資が誘致されています。弊社は、炭素回収貯蔵パイプラインの建設や廃棄物をクリーンな燃焼効果のある天然ガスに変える技術など、お客様がインフラや技術プロジェクトに参加する機会を作っています12。欧州各国政府もネットゼロ経済への移行を支援し、成長を促進するためのインセンティブを提供しています。 

今後台頭する最も魅力的な投資機会のいくつかは、移行ファイナンスの分野でしょう。弊社はこの重要性を踏まえ、お客様に代わってこうした機会に投資をするリーディングカンパニーになることを目標としています。

私は昨年の書簡の中で、次のユニコーン企業となる1,000社は検索エンジンやソーシャルメディア企業ではないだろうと書きました。その多くは持続可能で拡張性のあるイノベーター、つまり世界の脱炭素化を促進し、すべての消費者にとって安価なエネルギー移行を実現するスタートアップ企業でしょう。私は今でもそう信じています。そして、このような投資機会に可能性を見出したお客様に投資の選択肢を提供しています。

弊社の低炭素化への移行における投資のアプローチは、他のすべての資産クラスと同様です。お客様に選択肢を提供し、お客様の投資指針の枠組みの中で、リサーチ、データ、アナリティクスを駆使して、リスク調整後リターンの最大化を追求することです。

お客様の選択肢の拡大を通じた、議決権行使の変革

弊社は、お客様に提供する選択肢を広げるため、さまざまな分野でイノベーションを続けています。お客様によっては投資先企業に対するスチュワードシップ活動において、より直接的な役割を果たすことを希望されることがあるため、弊社はお客様が株式の議決権を行使できるようなソリューションの提供を模索してきました。お客様や投資先企業の経営者の皆様宛ての書簡で昨年述べたとおり、議決権行使の選択肢が広く採用されれば、株主の民主主義に新しい声が加わり、コーポレート・ガバナンスを強化できると信じています。

ブラックロックは何年も前からこのイノベーションの最前線に立っており、他の資産運用会社が弊社に続いて同様の取り組みを採用するのを目にしてきました。現在、弊社のインデックス株式運用資産のほぼ半分が、Voting Choiceの対象になっています。これには、弊社が米国で運用するすべての公的・私的年金資産と世界中の6,000万人以上の方々が加入する退職年金制度が含まれます。総額で5,000億米ドル以上の運用資産残高を代表するお客様がVoting Choiceに参加して、自社の意思を直接的に表明することを選択しています。

(弊社のお客様の投資先である企業の)経営者の皆様宛てに私が書簡を書き始めた当初、私はスチュワードシップ活動と長期的な価値の創造を目的とした、建設的なエンゲージメントの重要性に注力しました。株主総会における議決権行使の時期だけでなく、年間を通じてコーポレート・ガバナンスに関わるために業界最高のグローバルなスチュワードシップ・チームを構築することを目指したのは、資産運用業界が少数の議決権行使助言会社に依存している状況が適切でないと考えたからです。お客様は、弊社に対して独立した立場で十分な情報に基づいて、お客様の利益に最も即する形で意思決定を行うことを求めていると思ったためです。そして、今でもそのように思っています。

こうした判断を下すには、今後発展しうるリスクや機会に企業がどのように対応しているかを理解する必要があります。グローバリゼーション、サプライチェーン、地政学、インフレ、金融・財政政策、気候などの変化はすべて、企業の持続的な価値を創出する能力に影響を与える可能性があります。弊社のスチュワードシップ・チームは、アセットオーナーであるお客様のために、投資先企業のよりよい投資パフォーマンスの実現に向けて活動しています。具体的には、事業の経済的価値にとって重要性が高い要因について、企業がどのように対応しているかを理解し、健全なガバナンスとビジネス慣行を提唱するなどです。このような重要な責任を弊社に託してくださる多くのお客様にとって、ブラックロックのスチュワードシップ活動はお客様が我々に求める最も重要な要件なのです。

同時に、コーポレート・ガバナンスに多くの声を加えることで、株主民主主義をさらに強化することができると考えています。しかし、民主主義は人々が情報を得て積極的に関与することで、初めて機能します。より多くのアセットオーナーが自らの意思で議決権を行使することを選択する中、重要なガバナンスの問題について、十分な情報に基づいた意思決定を行うための時間とリソースを適切に割くことができているかを確認する必要があります。議決権行使助言会社は、重要な役割を果たすことができます。しかし、アセットオーナーが少数の議決権行使助言会社に頼りすぎると、アセットオーナーが持つ本来の影響力を十分に発揮できないかもしれません。私は議決権行使の対象となる事項に関して、多様な意見を提供できる議決権行使助言会社が増えていくことは、業界にとって有益であると確信しています。 

一方、このような変化の中で、企業は自らの議決権を直接行使する選択をした株主にアプローチする新たな方法を見つける必要があり、充実した情報開示と議決権行使に関するエコシステムの進歩がより重要になるでしょう。

議決権行使に関するエコシステムの今後10年間における変化は、コーポレート・ガバナンスの再構築を促す変革の推進力となる可能性があります。

お客様中心のアプローチが業績に与える効果

ブラックロックは、現在もこれまでも一貫して、それぞれお客様のガイドラインや目標に沿い、リスク調整後の財務リターンを最大化することに注力しています。弊社は、お客様が経済的な豊かさを実現できるよう、お客様のニーズをいち早く理解することでより多くの選択肢を提供し、イノベーションを起こす取り組みを絶えず続けています。そして、これまで以上に多くのお客様からお声がけいただくようになっています。

ブラックロックは2022年に業界の長期資金流入でトップシェアを獲得し、通年のベースフィーのオーガニック成長はプラスとなりました。過去5年間、業界全体では資金流入が横ばいもしくはマイナスであったのに対し、ブラックロックは同期間に合計1.8兆米ドルの純資金流入を獲得し、平均5%のオーガニックな預かり残高の成長を達成しました。この5年間、市場は上昇と下落を繰り返しましたが、ブラックロックが一貫して成長し続けることができたのは、弊社の多岐にわたるソリューションの力によると思います。

2022年には約4,000億米ドルもの長期投資の新規資金が純増となりました。これは数千もの企業や組織、投資家の皆様がブラックロックを信頼し続けてくださっていることの表れだと考えています。

また、米国における2,300億米ドルの長期投資の資金流入を含め、すべての地域で資金流入はプラスでした。お客様はポートフォリオを横断するソリューションを求め、インデックス/アクティブ戦略ともに、また債券、株式、マルチアセット、オルタナティブにおいて預かり資産のオーガニック成長を達成しました。

市場の下落や米ドル高により、ブラックロックの運用残高は2022年に1.7兆米ドル減少し、弊社の業績に影響を与えました。弊社のお客様も2022年の複雑な市場環境の影響を受けており、我々は世界中の様々なお客様とともに今後を見据えたポートフォリオの再構築を進めています。こうした状況の中、お客様が不確実な市場を乗り越え、長期投資への自信を取り戻すためにブラックロックが果たすべき責務は今まで以上に大きくなっています。

足元の環境はポートフォリオ構築の見直しや、久々に利回りが復活した債券投資の機会を捉えたり、インフレの高止まりや市場の苦境に対してより耐性のあるセクターに配分したりするなど、市場の混乱に乗じた収益化できる機会が多くあると考えています。ブラックロックは、多岐にわたる戦略と統合された運用管理、テクノロジー、助言において高い専門性を有し、お客様のポートフォリオを俯瞰して、こうした環境における投資機会に対処できるようサポートする独自の体制を備えています。

弊社のポートフォリオ全体を俯瞰するアプローチは、これまで以上に多くの投資家から支持されています。2022年は機関投資家のお客様からの重要ないくつかのアウトソーシング(OCIO)マンデートに支えられ、長期投資の資金流入は1,920億米ドルと記録的な水準を達成しました。ますます複雑化する投資環境において、OCIOソリューションへのお客様からの引き合いには非常に強いものがあります。過去2年間で、既存および新規のお客様から総額3,000億米ドル以上にのぼる多くのOCIOマンデートを頂いたことを名誉に思います。これらのお客様は、困難な市場環境と対峙するために、ブラックロックのスケールメリット、豊富なリソースおよび専門性の高さを評価し、弊社を選んでくださいました。この流れは2023年も続くと予想しています。

2022年、ブラックロックは、iシェアーズETFを通して、何百万人もの投資家の将来の資産形成をお手伝いしました。同年のiシェアーズETFの資金流入は、業界トップの2,200億米ドルでした。iシェアーズETFの商品数は業界最多で、最も多くの選択肢を投資家に提供していることを誇りに思います。2022年だけでも、上場された新規ETFは世界中で85以上にのぼります。

債券ETFは、iシェアーズの成長を牽引し、過去最高の1,230億米ドルの純流入を記録しました。2022年の資金流入トップ10の債券ETFのうち6銘柄はiシェアーズETFで、再びグローバルETF市場の資金流入をリードしました。債券ETFは2022年に誕生から20年を迎えました。現在iシェアーズ債券ETFは、商品数にして450本以上、残高ベースで7,600億米ドルの規模を誇ります。

過去20年間、債券ETFは債券投資の障壁の多くを取り除き、あらゆるタイプの投資家が債券市場に容易にアクセスできるようになりました。債券ETFは、細分化された債券市場を透明性と流動性の高い取引所を介してつなぎます。それにより、投資家は予め提示されたビッド・アスク・スプレッドにより、比較的低い手数料で容易に債券のポートフォリオを購入できるようになりました。債券ETFは今後も債券市場の構造的な進歩を後押しし、さらに近代化、電子化された債券市場に統合されていくでしょう。

インカムへのニーズに加え、足元の市場環境(インフレ、銀行セクターの苦境、上場株式のパフォーマンス不振など)を背景にリターン源泉の分散に対するニーズは強く、それらが今後もプライベート市場の成長を後押しするでしょう。弊社は、2022年にプライベート・クレジットとインフラストラクチャーを中心にオルタナティブ戦略全体で350億米ドルの資金調達をしました。また、後継ファンドのスケーリングに成功し、ヴィンテージ・ファンドの調達を通じてより規模の大きなファンドを提供しています。例えば、2020年に「グローバル・エネルギー & パワー・インフラ・ファンド」の3号ファンドは、1号と2号ファンドの総資産を上回る、総額50億米ドルを調達しました。2022年には、このフランチャイズの最新ファンドがファーストクローズで45億米ドルの初期投資家コミットメントを調達し、目標規模の75億米ドルの半分以上を達成しました。

ブラックロックの分散型インフラストラクチャー・ファンドは、米国および世界中の地域社会にも利益をもたらしています。2022年には、我々の分散型インフラファンドとAT&TによるジョイントベンチャーのGigapower設立に関する合意を発表しました。Gigapowerは、今後AT&Tの従来のサービスエリア外の顧客や地域社会にファイバーネットワークを提供する予定です。このネットワークは、情報格差の解消に向けた取り組みを推進し、最終的にはGigapowerが事業を展開する地域社会の経済活性化に貢献することを期待しています。

Aladdinへの数十年にわたる投資は、資産運用会社として、またフィンテックのリーディングプロバイダーとして、ブラックロックの差別化に寄与しています。市場のボラティリティが高い時期は、これまでもAladdinの重要性に注目が集まってきましたが、2022年は受託額が過去最高となりました。多くのお客様がテクノロジーの強化を図っており、プロバイダーの数を絞ることでコストを抑え、より多くを達成しようとしています。これは弊社の2022年のマンデートのうち、約半数のお客様が複数のAladdin製品を採用していることからも明らかです。

運用とテクノロジーのケーパビリティに加えて、金融機関や公的機関への助言において重要な役割を担っている弊社の金融市場アドバイザリー(FMA)グループについても取り上げたいと思います。パンデミックの初期に、弊社はニューヨーク連邦準備銀行が企業への経済支援を目的に導入したプログラムの資産管理を受託し、誇りをもって運用してきました。その間、複数回にわたり資産の売却を進め、2022年に全資産の売却を無事完了しました。

また、FMAグループがウクライナ政府に無償で協力し、投資の枠組みを設計するためのアドバイスを提供していることも大変誇りに思います。 その目的は、最終的に公的機関と民間投資家の両方がウクライナ経済の復興と回復に参画する機会を創出することです。

この半年間、ゼレンスキー大統領と電話会議をするたびに、常に身が引き締まる思いがしました。ウクライナの人々の勇気と気概は、世界中の何百万人もの人々を鼓舞してきました。彼らは戦場で戦い続けながら、戦後の復興計画を進めているのです。ウクライナの人々は、希望を持つことの重要さを身をもって示しています。そして、ブラックロックは、自由かつ平和で豊かなウクライナを目指す彼らの希望を実現するための基盤作りを支援できることに感謝しています。

デジタル資産

この1年で金融業界で話題になったものといえば、FTXの破綻を筆頭とするデジタル資産でしょう。しかし、そのニュースの見出しの先を見ると(メディアはビットコインに夢中になっていますが)、デジタル資産の分野では非常に興味深い展開が起きています。インド、ブラジル、アフリカの一部など多くの新興市場では、デジタル決済の飛躍的な進歩に伴いコストが下がり、金融包摂が進んでいます。一方、米国をはじめとする多くの先進国ではイノベーションが遅れており、決済にかかるコストは非常に高いままです。

資産運用業界にとって、デジタル資産を支える技術の中には運用面で将来性を有するものもあり、応用の可能性に期待をしています。特に資産クラスのトークン化は、資本市場の効率化、バリューチェーンの短縮に加え、投資家にはコストの低下と市場アクセスの改善をもたらす可能性があります。ブラックロックではデジタル資産のエコシステム、特にパーミッションド(許可型)ブロックチェーンや株式、債券のトークン化など、お客様に最も関連性の高い分野の調査を続けています。

デジタル資産の業界は成熟しつつありますが、この市場には明らかに高いリスクがあり、規制が必要です。ブラックロックはオペレーショナル・エクセレンスを重視しており、デジタル資産に対しても、弊社の事業全体と同様の基準や管理を適用する予定です。

長期的な成長に向けた戦略

過去30年以上、ブラックロックはお客様の声に耳を傾けることで資産運用業界をリードしてきました。弊社の成長は、お客様のニーズを理解し、市場の機会を捉える投資戦略を構築し、規律を持って実行するという深くゆるぎないコミットメントの上に築かれてきました。

2022年、弊社の経営陣と取締役会は、今後3~5年間の成長戦略の見直しに時間を費やしました。そこでは今後数年間、市場の先行きが不透明でボラティリティが高まるとしたら、どのような行動を取るべきかについて議論しました。我々は、危機や変化から学ぶことでさらに成長できると考えており、敢えてこの点について議論をしました。「市場の混乱や業界の構造的な変化により、新たな機会が生まれたときに我々はどのようにそれを活かすことができるのか?」、「これまでもそうであったように、危機を経てより強い組織となるにはどうすればいいのか?」などについて議論を重ねました。

成長戦略の見直しを経て、弊社の経営陣と取締役会は、ブラックロックの事業戦略およびスケールメリットとコストの効率化を活かしたビジネスモデルへの確信を新たにしました。弊社の事業戦略は引き続き、Aladdin、iシェアーズ、プライベート投資戦略の拡大と、アクティブ戦略におけるアルファの追求、サステナブル投資における多様な選択肢の提供、そしてポートフォリオ・レベルのアドバイスをお客様に提供することを中核に据えています。

また、移行ファイナンス、OCIO、機関投資家・個人投資家のお客様向けのポートフォリオ・カスタマイゼーションの拡充、世界中で個人投資家のお客様からのニーズが高まるオルタナティブ投資など、ビジネスチャンスは広がっています。

お客様がブラックロックにさらに多くの取引を委託してくださるのは、我々が強い投資文化とテクノロジーのニーズに応えるケーパビリティを持ち、かつグローバル・ネットワークとマルチアセットのプロダクト戦略を有するソリューション型の運用会社であるためです。弊社は世界最大の資産運用会社ですが、我々の収益はこの多様かつ幅広い業界全体の3%に過ぎません。弊社は、市場サイクルを通じて引き続き5%のオーガニック成長を目標とすることで、下落・上昇相場の両方で業界を上回る業績を達成できると考えています。

2022年に約4,000億米ドルの長期投資の資金をお客様から受託したことを名誉に思います。他のお客様からも同様のニーズがあり、今後もさらなるビジネスの成長機会が生まれていくと考えています。

ポートフォリオにおける債券の役割はますます重要になってきています。十数年ぶりに投資家は、金利やクレジットリスクをそれほど取らなくとも魅力的なイールドを得ることができるようになりました。機関投資家も個人投資家も、仮に7%程度のリターンを目標とした場合、達成するには株式、債券、オルタナティブなどに資産を配分し管理する必要がありました。しかし現在では、資産のほとんどを債券に振り向けることで目標を達成することができます。

お客様は、数十年ぶりに訪れた債券の投資機会を捉えるために、ブラックロックのプロダクトやソリューションを活用しています。弊社の3.2兆米ドル規模の債券およびキャッシュ戦略は、投資家の強まるニーズを捉える競争力を備えています。業界トップの債券ETFの資金流入に加え、お客様はブラックロックの多様なアクティブ戦略にも注目しています。 昨今の銀行預金の安全性をめぐる懸念は、弊社が提供するキャッシュ・マネジメント・ソリューションへの需要をさらに加速させると考えています。 

過去数年間、重要なOCIOの受託と執行において顕著な成功を収めたことがきっかけとなり、より多くのお客様との対話が生まれました。2023年の初め、ブラックロックの重要な年金のお客様の2基金からOCIOのマンデートに弊社を選定したとの通知がありました。大規模な基金の加入者の年金の運用を我々に託してくださったのです。これらは、ブラックロックの幅広い投資戦略と知見、そしてローカル市場のニーズに沿ったソリューションがお客様から評価されていることを示す事例の一つです。

OCIOや取引をするプロバイダーの絞り込みを希望するお客様が増える中、ブラックロックの多様な運用戦略とテクノロジー・プラットフォームの競争力は、より顕著になっています。ブラックロックは、ETF、アクティブ戦略、プライベート資産において業界をリードするソリューションをポートフォリオ・レベルでお客様に提供しています。弊社は、今後数年でETF市場が15兆米ドルに達すると予想しており、iシェアーズが市場の成長を牽引すると考えています。アクティブ戦略では、アルファを生み出す新たな手法を見つけ出し、モデルポートフォリオの中でダイナミックにアクティブ・アロケーションを行う戦略を提供しています。また、ここ数年はプライベート市場向けに先行投資を行い、プライベート・クレジット、インフラ、トランジション・ファイナンスなど、特に銀行からの融資が減少するような場合を見据え、新たな機会を捉えられるよう体制を整えてきました。

Aladdinは、お客様に弊社の戦略を横断的に提供することを可能にする基盤(エンジン)です。ブラックロック全体を統合するオペレーティング・システムであるだけでなく、弊社のお客様の中でも特に資産規模の大きいお客様向けのソリューションにおいて欠かせない重要な要素の一つです。2022年に過去最高の純売上高を達成したことが示す通り、Aladdinの成長の勢いはかつてないほど強く、お客様との対話においてアドバイザリー・ソリューションは引き続き重要な役割を担っています。

ブラックロックは創業以来幾度となく、困難な環境を将来の成長につなぐユニークな機会に変えてきました。そして、そうした局面を経て競争力を高め、お客様との結びつきをより深めてきました。私は、ブラックロックのさらなる成長を確信していますし、弊社は様々な戦略を包括的に提供することで競争力を最大限に発揮し、これからもお客様、従業員、そして株主様に利益をもたらすよう全力を尽くしてまいります。

リーダーシップと企業文化の醸成

昨年、私は一つの節目となる誕生日を迎えました。この節目は、長年にわたる私自身のリーダーシップと、ブラックロックの役割と責任について考える機会となりました。

ブラックロックを創業したとき、私は35歳でした。当時は、今日のような会社に成長することは想像もできませんでした。これまでにリーダーシップについて多くを学びました。現在、私の最も重要な責務は、組織全体を通してリーダーを育て導くことです。

私は、ブラックロックの人材、高度な専門知識、そしてリーダーシップをかつてないほど頼もしく思っています。お客様の潜在的なニーズを理解して革新を続け、株主様に価値を創造し、ブラックロックを未来へと導くことができると確信しています。

ブラックロックは、パンデミックの際にあらゆるセクターの多くの企業同様、リモートワーク中心の体制への転換を成功させました。現代のテクノロジーとリモートワークは、経済の救世主となりました。弊社は、リモートで仕事をすることで、リーダーたちが垂直的にそれぞれの担当分野で非常に優れたパフォーマンスを上げることができることを知りました。しかし、ブラックロックは、1つ、2つ、3つのサービスを個々に提供することでお客さまに選ばれているのではなく、ブラックロックが一丸となり横断的なソリューションを提供できるから選ばれているのです。

ブラックロックで最も成功しているリーダーは、横断的に仕事をしています。チームやグループの垣根を越えて、イノベーションを起こし、目標を推進し、お客様のために尽力します。弊社のリーダーは多様なバックグランドを持ちますが、彼らは皆、お客様のために共に働くという共通のコミットメントで結ばれています。

この3年間は、どの企業もそれぞれの企業文化を維持するのに苦労したことでしょう。隔離を経て、オフィス勤務が再開したものの、地域により再開の時期が異なったことで、企業文化が損なわれ、新たに入社した従業員にとっては学び、成長することが難しくなるリスクがありました。私は、同様のことをほぼすべての企業のリーダーから聞きました。

成功する経営者は、あらゆるステークホルダー、とりわけ従業員との絆を築く必要性を理解しています。昨年、私は企業のリーダーたちに宛てた手紙で、新しい働き方に適応し従業員と強いつながりを築くことの重要性について書きました。ブラックロックの調査によると、従業員が企業文化や価値観を高く評価している企業は、同業他社と比較して株式リターンが良好であり、そこに強い相関関係があることが示されています13。当時から 1年以上経った今、この必要性はさらに増しています。企業が優秀な人材を獲得できるかが成功と失敗を左右する世界において、給与だけにとどまらない絆を築くことがこれほど重要となったことはないでしょう。

パンデミックの際、ブラックロックはチームの絆と企業文化を維持するために、絶えず努力を続けました。さらに、ブラックロックのこれまでの歩みの中で指針となってきた「ブラックロック・プリンシプル」(企業理念)を刷新するため、全社的な取り組みを行いました。そして今、弊社はニューヨークの新本社をはじめ、世界中のオフィスで、従業員同士、そしてお客様と対面で対話できるような状態に戻すことに注力しています。

弊社は常にお客様の潜在的なニーズを理解したいと考えています。そのためには、生産性、イノベーション、そして持続的なつながりに焦点を当て続ける必要があります。つまり、スクリーン上でつながるのではなく、肩を並べて仕事をする必要があるということです。今後を考えると、次世代を担うリーダーの重要な課題の一つは、企業が成功するために必要な企業文化を強化するために、従業員をオフィスに呼び戻すことではないでしょうか。

取締役会

ブラックロックの取締役会は、長期的な戦略の見直しや事業のリスクと機会の評価など、弊社が長期的な成功を達成するうえで欠かせない役割を担っています。彼らの多様な専門知識と経験は、弊社を正しい方向へ導き、コーポレート・ガバナンスを強化することにつながっています。

弊社は、長期的な成功を収めるために取締役会の構成について慎重に考慮しています。グローバルにビジネスを展開していることを踏まえ、取締役には多様な経験や能力を求めることで、時間をかけて取締役会を進化させることに尽力しています。

ベス・フォードがブラックロックの重要な取締役として、取締役会に新しい視点と専門知識をもたらしてくれたことは、非常に幸運なことでした。2022年に、ベスは配偶者がミネソタ州投資委員会のCIOに就任したことを受け、弊社の取締役を退任することが適切であると判断しました。ベスが取締役会のメンバーとして多大な貢献をしてくれたことに感謝します。

私は、ブラックロックの次世代リーダーの育成を非常に重視しており、ブラックロックの取締役会も同じように考えています。お客様の潜在的なニーズを理解するためにビジネスを継続的に革新・進化させるとともに、組織とリーダーシップチームも進化させています。ブラックロックがOne BlackRockとして一丸となって最大限の能力を発揮することで、お客様に最適なソリューションをお届けするためには、深い経験と知識、そして会社全体とのつながりを持つシニアリーダーシップチーム、つまり組織を横断的に率いることの重要性を理解している経営幹部のチームが重要なのです。

弊社は数年ごとに組織やリーダーシップの変革を行っていますが、それはこの変革がお客様、株主様、会社、そして弊社の経営幹部自身にも大きな利益をもたらすと信じているからです。こうした変化は、弊社をより緊密に結びつけ、新しい発想の創造を促進し、お客様の潜在的なニーズをより的確に理解することにつながります。2022年には、複数の経営幹部が新しい役割を担うことを発表しました。彼らの多様な経験、グローバルな視点、そしてブラックロックが一つとなり、つながりを強化することで弊社はさらなる進化を遂げることができるでしょう。

ゲイリー・シェドリンは、今日のブラックロックを築くうえで多大な貢献をしたリーダーの一人です。ゲイリーは再びお客様と直接向き合って仕事をすることを希望し、それに伴い我々は組織を変更しました。直近のリーダーシップの変更の一つは、ゲイリーの新しい役割を反映したものです。彼は素晴らしい友人であり、過去10年間はCFOとして、それ以前はアドバイザーとして、ブラックロックと株主様のためにブラックロックの成長に尽力してきました。彼が引き続きブラックロックで、今後は副会長としてお客様との戦略的な関係の構築を担ってくれることをうれしく思います。また、新しいCFOとしてマーティン・スモールが就任し、タッグを組めることも喜ばしいことです。マーティンは、16年間のブラックロックでのさまざまな職務経験から深い知識と専門知識を有しており、まさに組織横断的にリーダーシップを発揮してきた人物です。

今後の展望

私にとってこの手紙を書くことは、過去1年間を振り返り未来がどうなるかを考える機会となっています。昨年この手紙を書いていた時は、ロシアによるウクライナ侵攻が報じられた直後で、グローバリゼーションに変化が訪れ、インフレ率は高騰し金利も上昇し始めていました。世界はまだこうした変化の多くと、それに伴う市場のボラティリティへの対応に追われています。私は、リーダーシップチームのもと、ブラックロックがお客様にソリューションを提供し、株主様に価値を創造し、地域社会にその果実を還元していることを心から誇りに思います。

資本市場の力、そして資本市場に投資することの重要性に対する私の深い信念は、35年前にブラックロックを設立したときも今も変わらず、ゆるぎないものです。この信念は、すべてのブラックロックの従業員たちにもしっかりと受け継がれています。私はブラックロックの未来に非常に楽観的です。なぜならブラックロックの従業員は、我々のパーパス(存在意義)を体現し、お客様の潜在的ニーズを理解することで進歩し続け、世界中の人々が資本市場により容易にかつ安価にアクセスできるようにするために尽力しているからです。

音楽の聴き方は変わりましたが、何度も繰り返し聴く曲もあります。お客様に代わって私が主張するテーマについても同じことが言えます。私は自分の声を使ってブラックロックのお客様をサポートし、長期的な視点で投資を促し、投資家の皆様の道先案内として、対処すべきリスクや投資機会について発言しています。ブラックロックは創業以来、常にお客様に最良のサービスを提供することに注力し、たゆみない努力を重ねてまいりました。こうして前進していくことを通じて、圧倒的なリターンという形で株主様に価値をお届けすることができたのではないかと考えています。

敬具

敬具

ローレンス・D・フィンク
会長 兼 CEO

 


アーカイブ

2023 | 2022 | 2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016

 

 

1 米国株式市場に上場する時価総額ベースで大型株の運用会社。

2 ブラックロック、2022年9月30日時点。累積コスト削減額は、2015年から2022年9月30日までの期間について、ファンドの以前の経費率と新たな経費率の差に手数料引き下げ時のファンドの運用資産残高を乗じて算出。同期間中の複利効果は考慮していません。

3 出所:モーニングスター、‘2021 U.S. Fund Fee Study’(p14)。

4 過去の実績は将来の成績を保証するものではありません。

5 Federal government current expenditures: Interest payments (NA000308Q) | FRED | St. Louis Fed (stlouisfed.org)

6 エデルマン・トラスト・バロメーター、2023年1月(p6-7)。

7 ギャラップ、2022年5月12日。

8 データ期間は2013年1月1日~2022年12月31日。過去の実績は将来の成績を保証するものではありません。

9 ミュンヘン再保険、2023年1月10日。

10 NFIP Debt、FEMA、2022年11月4日。

11 IEA、2022年10月6日。

12 出所:ブラックロック、「米国の移行政策、投資への影響:インフレ抑制法と直近の政策による脱炭素化への影響を評価する」(2023 年 1 月)https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/literature/market-commentary/blkj-publication-bii-us-transition-policy-january-2023-jp-ja.pdf

13 ブラックロックの分析に基づく、2023年。

 

2022年12月31日現在、S&P US BMI Asset Management & Custody Banks Indexには、以下の企業が含まれます。Affiliated Managers Group Inc.; Ameriprise Financial Inc.; Ares Management Corporation; Artisan Partners Asset Management Inc.; AssetMark Financial Holdings, Inc.; Associated Capital Group Inc.; Avantax, Inc.; BlackRock Inc.; Blackstone, Inc.; Blue Owl Capital, Inc.; Bridge Investment Group Holdings, Inc.; BrightSphere Investment Group Inc.; Carlyle Group, Inc.; Cohen & Steers Inc.; Diamond Hill Investment Group, Inc.; Federated Hermes Inc.; Focus Financial Partners, Inc.; Franklin Resources Inc.; GQG Partners, Inc.; Galaxy Digital Holdings, Ltd.; Grosvenor Capital Management, L.P.; Hamilton Lane Inc.; Invesco Ltd.; Janus Henderson Group Plc.; KKR & Co, Inc.; Northern Trust Corporation; P10, Inc.; SEI Investments Company; Sculptor Capital Management Inc.; Silvercrest Asset Management Group Inc.; State Street Corporation; StepStone Group, Inc.; T. Rowe Price Group Inc .; TPG, Inc.; The Bank of New York Mellon Corporation; Victory Capital Holdings Inc.; Virtus Investment Partners Inc.; Westwood Holdings Group Inc.; WisdomTree Inc.

 

 

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