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Q4 2022 GLOBAL OUTLOOK

インフレと景気後退

経済と市場のボラティリティが高まる新たなレジームが展開しようとしています。中央銀行はインフレにのみ焦点を当てており、短期的には政策を過度に引き締め、経済的損害をもたらすとの確信を深めています。そして市場はその影響を過小評価していると考えます。ブラックロック、景気後退が迫る中で引き続きポートフォリオのリスクを低く抑え、ユーロ建ての投資について新たに展望を示しています。

投資テーマ

  • 01

    高いボラティリティに備える

    マクロと市場のボラティリティが高まるレジームに突入しました。このことは、市場の見方をより迅速かつ精緻に変化させる必要があることを示唆しています。

  • 02

    インフレとの共存

    FRBは最終的には、利上げが成長と雇用に与える影響を見極めながら、インフレの上昇と共存していくとみています。今のところ、FRBはインフレ抑制にのみ対処しているように思われます。そのため、ポートフォリオのリスクを減らしています。

  • 03

    ネットゼロへ向けたのポジショニングの構築

    炭素排出量の多い企業の中で、信頼できる移行計画を持つ、もしくは移行の鍵を握る企業に投資することは、投資家に移行へのエクスポージャーを与えると同時に、平坦ではない移行の道のりの影響が軽減する可能性があります。

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ボラティリティが高い新たなレジームが展開

7-9月期は「グレート・モデレーション」の終焉と、経済と市場のボラティリティが高まる新たなレジームに焦点を当てることとなりました。市場は、政策当局が直面すしている経済成長とインフレのトレードオフの悪化と向き合っています。

英国は今回のトレードオフの震源地であり、政府の財政支出は国内資産の暴落を引き起こし、英中銀が介入して債券市場を安定させることを余儀なくされました。経済がソフトランディングする見込みはほとんどなく、また成長率に大きな打撃を与えることなくインフレ率が目標値まで急速に低下することもないと思われます。

中央銀行は当面の間、政策を過度に引き締め、それは経済への打撃をもたらし金融安定化リスクが高まると思われますが、株式市場はまだそれを十分に認識していない可能性があります。ブラックロックは、戦術的な観点から先進国株式のアンダーウエイトを維持し、質の高いクレジットを選好します。

インフレ抑制は深刻な景気後退を意味します

米国のGDPと生産能力:2019-2024年

このグラフは、米国が新型コロナが始まって以降、現在の水準を維持できる生産能力の推定値を満たすには、米国のGDPが2%減少しなければならないことを示しています。

"出所: BII、BEA、データはHaver Analytics。2022年8月時点。
注記: グラフは、実質GDPで測定した経済需要(オレンジ色)と、新型コロナ以前の経済成長トレンド予測(ピンク色)を示しています。緑色の点線は、現在の生産能力の推定値。コアPCEインフレ率が連邦準備理事会のインフレ目標値2%をどの程度上回っているかから推定。

インフレ率を2%目標まで下げることは、重大な経済的打撃を意味するとブラックロックは考えています。それは先進国には生産能力に制約があるためです。先進国の労働市場と個人消費のパターンが完全に正常化されていません。その結果、特にサービス業において需要と供給のミスマッチが起きていると考えます。

この不均衡がインフレ圧力の根源であると考えています。こうした背景のもとでは、インフレを抑制する唯一の方法は需要を破壊することです。

中央銀行は金利を引き上げていますが、インフレを早期に低下させるために必要な損害の大きさを十分に認識していないと考えます。生産能力と経済成長のギャップを埋めるためには、米国においてさらに300万人の失業者が発生し、GDPが2%近く減少する必要があるとブラックロックは試算しています。

欧州では、エネルギー・ショックがこうした力学を増幅させます。欧州では2022年に深刻な景気後退に陥るとみています。米国は2023年初めに緩やかな景気後退になるでしょう。中国では、輸出の減速と新型コロナに伴うロックダウンが長引き、経済活動の重荷になっています。政策当局が大規模な景気刺激策に慎重で、政策による支援は比較的抑制的となることが見込まれるため、中国の経済成長が今回世界経済を救う可能性は低いことを示唆しています。

リスクテイクを抑制する

株式は、マクロ見通しの悪化を織り込み始めたばかりだと考えています。景気後退リスクと金利上昇のコンビネーションをまだ十分に反映しておらず、株式の下落余地はまだあるとみています。2022年と2023年の市場予想ベースの収益予想は、経済成長を前提としており依然楽観的すぎると思われます。

ドル高が止まらないのは、リスク選好が揺らいでいる表れであり、世界的に金融環境がタイトになっています。クレジット、特に投資適格債のバリュエーションは相対的に魅力があり、企業のバランスシートは比較的健全であるため、株式よりもクジレットの方が景気後退を乗り切るのに有利な立場にあると考えます。

先進国債券、特に長期債のアンダーウエイトを継続します。これは、高水準の債務と持続的なインフレを背景に、タームプレミアム(債券を保有する期間に対する投資家の対価)が上昇するとみているためです。この広範囲にわたるアンダーウエイトの中で、高い利回りによる収益性を考慮し、短期債を選好します。インフレ率低下に対する市場の期待は行き過ぎている可能性があるため、インフレ連動債のオーバーウェイトを継続します。

投資見通し

ポートフォリオがより迅速に変化する必要があるとブラックロックは確信を持っています。例えば、株式やクレジットについては、インフレ率が目標を上回ったままであるため、中央銀行が政策によるブレーキを踏み込めば、より一層慎重になる可能性があります。また、ユーロ建ての資産クラスに関する見通しを紹介します。

市場見通し

幅広い資産クラスに関する戦略的(長期)ならびに戦術的(6~12カ月)見通し:2022年10月

資産 戦略的見通し 戦術的見通し コメント
株式 Equities: strategic Overweight +2 Equities: tactical Underweight -1 戦略的観点から、株式をオーバーウェイト。リスクプレミアムの上昇に加え、マクロ環境の悪化とそれに伴う期待リターンの低下を反映している。中央銀行は最終的には一定のインフレと共存し、短期的なリスクを見過ごすとみている。 戦術的な観点からは、中央銀行が政策を過剰に引き締め、経済活動が滞ると考えられるため、先進国株式をアンダーウ エイトに変更した。歴史的に高水準にある企業の利益率は、投入コスト上昇リスクにさらされている。
クレジット Credit: strategic Underweight -1 Credit: strategic Overweight +1 戦略的な観点からは、ハイ・イールドからグローバル投資適格まで、クレジットをオーバーウエイトしている。スプレッドの拡大と国債利回りの上昇が期待リターンを押し上げる一方で、デフォルトリスクは抑制されていると考えている。さらに、インカムのポテンシャルも魅力的である。戦術的な観点では、投資適格債をオーバーウェイトとし、ハイ・イールドを中立とする。質 の 高 いもの選好する 。現地通貨建てのEM債券は魅力的なバリュエーションであるため、オーバーウェイトとする。リスクプレミアムが大きく、インフレリスクを埋め合わせると考えている。
国債 Government bonds: strategic Underweight -1 Government bonds: tactical Underweight -1 戦略的な見通しは、小幅なアンダーウエイトであり、大きなスプレッ ドを反映している:名目債を最もアンダーウエイト、インフレ連動をオーバーウエイト、中国債券をアンダーウエイト。5年後の名目債の利回りは現在の水準より大幅に高くなるとみている。こうしたリプライシングは、期待リターンに対するバリュエーション上の足かせとなろう。また、市場は高い水準のインフレが根強く残ることを過小評価していると思われる。戦術的には、2022年に利回りが急上昇したとしても、長期債の利回りはさらに上昇すると見ているため、アンダーウエイト。
プライベート市場 Private markets: strategic Neutral - ブラックロックは、多くの適格投資家が保有するよりもはるかに大きな配分をベースラインとしつつも、プライベートのグロース資産をアンダーウェイトし、プライベート・クレジットを中立。プライベート資産は、マクロや市場のボラティリティや金利の上昇を免れることはできず、公開市場の暴落によって相対的な魅力が低下している。プライベート資産への配分は長期的なコミットメントであり、時間の経過とともに資産の価格が見直されるため、投資機会があると考えます。プライベート市場は複雑な資産クラスであり、すべての投資家に適してはいない。

注記:上記の見通しは米ドルベースです。2022年9月時点。当資料は特定の時点における市場環境の評価を示すものであり、将来の出来事の予想または将来の成果の保証を意図したものではありません。読者は当資料中の情報に、特定のファンド、戦略あるいは証券に関するリサーチまたは投資アドバイスとして依拠すべきではありません。

各資産の戦術的見通し

各資産クラスの6~12カ月の戦術的見通しと確信の度合いに基づく世界の資産クラス全体に対する見方:2022年10月

マクロの見通しが悪化する中、アジアの債券を中立とする。この資産クラスに対してポジティブな見方に転じるほどには、バリュエーションはまだ魅力的ではないと考えている。

ユーロ建資産の戦術的見通し

各資産クラスの6~12カ月の戦術的見通しと確信の度合いに基づく世界の資産クラス全体に対する見方:2022年10月

過去の実績は、現在または将来の結果を示す信頼できる指標ではありません。インデックスに直接投資することはできません。
注記:2022年10月時点におけるユーロ建資産の立場での見解です。本資料は、特定の時点における市場環境を評価したものであり、将来の成果を予測・保証するものではありません。本資料は、特定のファンド、戦略、証券に関する投資アドバイスとして依拠されるものではありません。

中央銀行は、景気後退の可能性が高いにもかかわらず、政策金利を引き上げている。

中央銀行がインフレを早期に低下させることに重点を置いていることは、明確な順序を意味している。
最初に金融引き締めを強化し、次に経済に大きな打撃を与え、そして何ヶ月も経ってはじめてインフレ緩和の兆しがみえるでしょう。

政策金利の経路と市場による政策金利のプライシング、2022年

このグラフは、市場がFRBの政策金利をFRB自身の予測よりやや高く、欧州中央銀行については予測している金利経路のほぼ2倍の水準まで上昇すると予想していることを示しています。

出所:BII、S&P、Refinitiv、 Datastreamのデータを使用、2022年9月時点。
注記:グラフは、フォワードレートの翌日物指数先物スワップによる中央銀行の政策金利の予想プライシングを示している。表示されているレートは、1年物OISの水準である。

経済活動の縮小とエネルギーショックが景気後退のシグナルとなる

景気後退が到来します。ヨーロッパはエネルギー高騰の影響を受けやすいため 深刻な景気後退に陥るでしょう。ただ、米国の景気後退は、インフレ率をFRBの目標値である2%まで低下させるまでに深く陥らないとブラックロックは考えています。

左のチャートは、米国とユーロ圏の製造業の活動がそれぞれ4月と2022年の初めから急落し、縮小していることを示しています。右のチャートは、EUのエネルギー負担が米国の約2倍であることを示しています。

出所:BII、S&P、 Refinitiv、Datastream 、BP Statistical Review of World Energy 2021、Haver Analyticsのデータ、2022年9月時点。
注記: 左のグラフはS&P製造業生産購買担当者指数で、数値が50を下回ると活動が縮小していることを示します。右図は、EUと米国における石油、ガス、石炭の消費コストを対GDP比で表したものです。地域別のエネルギー価格を使用し、米ドル建てGDPで割ったものです。2022年のデータは、以下のものに基づいています。IMFの最新のGDP予測
と日次の商品価格の前年まで含む平均値に基づいています。

株式はマクロ見通しの悪化を織り込み始めたばかり

株式は、景気後退リスクと金利上昇の組み合わせをまだ十分に反映していないため、さらに下落する余地があると考えています。

S&P500指数 vs将来の米国の政策金利の市場価格との比較:年初来

黄色い線で表されるように、市場が最大4%の金利上昇を織り込み始めたため、2022年1月以降、S&P500(赤い線)が徐々に下降していることを示しています。

過去のパフォーマンスは、現在または将来の結果を示す信頼できる指標ではありません。指数は運用されておらず、手数料が考慮されていませんん。また、指数に直接投資することはできません。
出所:BII、Refinitiv、Datastreamのデータを使用 , 2022年9月時点。注記:グラフは、市場が予想する中央銀行の政策金利の水準をフォワードOIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)を通じて示したものです。表示されているのは、1年後に取引開始されると予想される1年物OISです。

見通し変更の際に考慮するポイント

ボラティリティが上昇する局面では、ポートフォリオがより迅速に変化する必要があると確信しています。ブラックロックの見方を戦術的に変更させる可能性のある要因を整理しました。

ポジティブ
資産 見通しを変更する際に注目しているポイント
株式とクレジット
  • 株式については、景気後退と金利上昇の組み合わせが価格に 反映される兆が確認されること
  • 中央銀行は政策の制約による経済成長への打撃を認識するなかで利上げを一時停止すること。
  • 供給のボトルネックが緩和されること。
  • バリュエーションが魅力的になること。
国債 インフレ期待が十分に固定されている、もしくは利回りがポートフォリオ全体から見て魅力的な水準に達する中で「ハト派的」なスタンスが確認されること。
インフレ連動債 供給主導のインフレが後退せず、財のインフレは高止まりする一方、サービス業のインフレが回復すること。
ネガティブ
資産 見通しを変更する際に注目しているポイント
株式とクレジット 中央銀行が深刻な景気後退に直面しても利上げを継続すること。企業業績の悪化が戦術的な時間軸を越えて長期に続くこと。
国債 インフレ期待が固定されないこと。
インフレ連動債 景気が後退しインフレが低下すること。

出所:BII、2022年10月時点。
注記: 記載事項は特定の時点における市場環境を評価したものであり、将来の事象を予測し、将来の結果を保証するものではありません。また、特定のファンド、戦略、証券に関するリサーチや投資アドバイスとして読者に依拠されるものではありません。

執筆者
Philipp Hildebrand
ブラックロック副会長
Jean Boivin
BII ヘッド
Wei Li
BII グローバルチーフ投資ストラテジスト
Alex Brazier
BII デピュティ・ヘッド
Vivek Paul
BII ポートフォリオ・リサーチ部門ヘッド
Scott Thiel
BII チーフ債券ストラテジスト

重要事項
当レポートの記載内容は、ブラックロック・グループ(以下、ブラックロック)が作成した英語版レポートを、ブラックロック・ジャパン株式会社(以下、弊社)が翻訳・編集したものです。また当資料でご紹介する各資産の見通し(米ドル建て)は、米国人投資家などおもに米ドル建てで投資を行う投資家のための見通しとしてブラックロック・グループが作成したものであり、本邦投資家など日本円建てで投資を行う投資家の皆様を対象とした見通しではありません。 記載内容は、米ドル建て投資家を対象とした市場見通しの一例として、あくまでご参考情報としてご紹介することを目的とするものであり、特定の金融商品取引の勧誘を目的とするものではなく、また本邦投資家の皆様の知識、経験、リスク許容度、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的等を勘案したものではありません。記載内容はブラックロック及び弊社が信頼できると判断した資料・データ等により作成しましたが、その正確性および完全性について保証するものではありません。各種情報は過去のもの又は見通しであり、今後の運用成果を保証するものではなく、本情報を利用したことによって生じた損失等についてブラックロック及び弊社はその責任を負うものではありません。記載内容の市況や見通しは作成日現在のブラックロックの見解であり、今後の経済動向や市場環境の変化、あるいは金融取引手法の多様化に伴う変化に対応し予告なく変更される可能性があります。またブラックロックの見解、あるいはブラックロックが設定・運用するファンドにおける投資判断と必ずしも一致するものではありません。

 

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