~医療、介護、社会構造から高齢化とリタイアメント問題を考える~

人口高齢化に対する政策の視点

2016年3月 小川 直宏 氏

世界の人口はこの100年間で3.8倍になりました。20世紀は、いわば「人口爆発の世紀」だったのですが、出生率の低下によって1960年代半ばから人口増加ペースは鈍化しています。その結果、21世紀は「高齢化の世紀」といわれています。

「あきらめるのはまだ早い。51歳という
労働所得のピークを引き上げる、高齢者に
よる海外の成長国への投資を促す…
より豊かな超高齢化社会実現のために、
挑戦すべきことはまだある」

小川 直宏 氏

現在私たちが調査対象にしている国はアジアが多いですが、ほとんどの国が年金医療制度の取り組みについて問題を抱えています。日本はその先頭にいるわけですが、さらに台湾や韓国では介護のマンパワーが足らずに困っています。

人口高齢化対策の新たなアプローチとして、10年ほど前にカリフォルニア大学バークレー校を中心に、世界5カ国から7人の人口経済学者が集まって新しい分析法を確立しました。それが「国民移転勘定(National Transfer Accounts、以下NTA)」で、ミクロとマクロの両方のデータを合体させて分析するものです。

今日紹介する数字は、国民所得勘定と整合性を取っているため、作り事ではなく、現実的な数値です。私たちは「最も重要なグラフ」と呼んでいますが、横軸に年齢、縦軸に1人当たりの労働所得と消費をプロットしています。これで年齢に応じた1人当たりの労働所得の変化が分かります。さらに消費は2つの部分に分かれており、1つは私的な消費、もう1つは国や政府が使っている公的な消費です。消費を2つに分けるところが従来の分析とは違っています。これを年齢ごとに見るので大変な作業です。グラフにすると何でもないようですが、家計に関する多くの変数が組み込まれています。

グラフを見ると、子供と高齢者は赤字です。この赤字を黒字で埋めるのですが、これには税金で払う部分と、親が子供を、あるいは家族が高齢者を支える部分、言い換えると公的なサポートと私的なサポートがあります。それでも足りない時は預貯金を取り崩します。興味深いことに、1984年の高齢者は64歳から家族からお金をもらい始めていたのが、25年経つと81歳からになっています。もはや65歳以上を高齢者と呼ぶべきなのか疑問です(下図参照)。

さらに、ネガティブな移転があることもポイントです。これは祖父母が子供や孫にお金をあげていることを意味しますが、この傾向が現れたのはバブルが弾けた1994年頃からです。その後リーマン・ショック時には、特に75歳以上で資産の目減りがあったので、移転にも影響が出ています。

それにもかかわらず、高齢者は、子供が困った時のセーフティネットとして、政府ではなくて自分たちが助けているというわけです。高齢者が政府からお金をもらう際の開始年齢の推移は60歳から63歳であまり変わっていません。定年制度や年金制度があまり変わっていないからです。しかし、家族からお金をもらう開始年齢は先述の通り17歳も上がっています。つまり日本の社会では、高齢者が家族を救済するためにリソースを移転させているとも言えます。

他方、高齢者の労働所得は上がっており、高齢者のコストがかかるというのが先進国の特徴です。いっぽうアジアは一定で、家族が同居して、無料の奉仕をしていることが分かります。このことから年齢の変化、つまり移転の形も変わるため、高齢者の定義を「65歳」以上とするのかをもう1度見直してみる必要があります。

人口配当には2種類あります。出生率が低くなると、生産年齢人口が相対的に増え、生産性が上がるのですが、これを第1次人口配当といいます。しかしその効果は短い(20~30年)ことを忘れてはいけません。

消費も生産性も年齢によって違います。個人で選好が違うので、それに合わせた調整が必要です。「最も重要なグラフ」を使ってこうした調整を行うと、全く違った形が出てきます。日本で人口配当がプラスであったのは1950年代初頭から1996年までで、それ以降はずっとマイナスです。このままいくと日本は絶望的に見えてきます。アジアの国もマクロとミクロのデータを積み上げて計算してみました。人口配当がゼロを下回ると経済の足を引っ張るのですが、中国は昨年で成長が終わりました。タイは今年が成長の分岐点で、ベトナムは分岐点まであと2年程度と、各国でタイミングが違います。

日本は人口配当がマイナスに転じているとはいえ、諦めるのはまだ早いです。男女計ですが、日本で労働所得が一番高いのは51歳です。今後の経済成長ポテンシャルを計算すると、今後もずっと落ちていきます。これを避けるには、労働所得のピークを1歳ずつ延ばしていく必要があります。45年間で9歳シフトする、つまり51歳のピークを60歳までもっていければ、現在よりも悪化せず、現状を維持できます。65歳の労働所得を130万円から480万円に増やすのは不可能と思うかもしれませんが、この年代の平均ですので、定年になって会社を辞めているので、もっと働いてもらって、教育水準が上がって、認知能力が良くなれば、実現可能な水準ではないでしょうか。

もう1つは第2次人口配当です。寿命が延びると、老後のためにもっと貯蓄しようという動きが起こります。場合によっては大きな貯蓄になる可能性があり、これをどのように使うのかが重要です。高齢者の金融教育が今後は重要になります。OECDから、57%の日本人が「金融商品についてあまり知識がない」と警告が出ています。日本大学で行った調査では、金融リテラシーが高い高齢者は、自分の人的資本の蓄積に前向きで、ファイナンシャルリソースとヒューマンリソースがリンクしています。

 

sf

*出所:小川氏作成 2016年3月時点。

小川 直宏 氏
東京大学大学院経済学研究科 特任教授
日本大学経済学部 名誉教授
日本大学経済学部中国・アジア研究センター・シニアフェロー
小川 直宏 氏
東京大学大学院経済学研究科 特任教授
日本大学経済学部 名誉教授
日本大学経済学部中国・アジア研究センター・シニアフェロー