~金融、投資運用から高齢化とリタイアメント問題を考える~

少子・超高齢社会に即した
雇用習慣のあり方を考える

2016年3月 森本 晴久 氏

私は日頃、機関投資家に向けたプライベートエクイティ投資の啓発と、運用教育の仕事に携わっています。過去15年間、日本の機関投資家との仕事を通じて抱き続けてきた素朴な疑問の1つに、「海外には知識と経験を備えた有能な運用者が多いのに、なぜ、日本には専門家が少ないのか」というものがありました。

「長く続いた終身雇用の慣習を変える
ことは容易ではない。しかし、超高齢化
社会においては、変えていく必要がある
のではないか」

森本 晴久 氏

今回のディスカッションに参加するにあたり「広義のリタイアメントと高齢化に関する重要課題を考える」という命題をいただきました。このテーマも、私自身が抱いていた疑問と一緒で、「終身雇用」や「個の能力を組織の総合力でカバーする」といった日本流の雇用慣行に起因するものが大きいのではないでしょうか。

終身雇用制度の待遇を受ける正社員には、同一企業で定年まで雇用される、年功序列を基本にした定期昇給制度で評価される、各種手当や医療保険が提供される、定年時には退職金が用意される、などの多くのベネフィットがあります。

こうした制度は海外でも珍しく、日本特有のものですが、もともと大正末期から昭和初期にかけて始まり、90年程度の歴史があります。制度が始まった当時は工業化社会で、熟練工を確保するうえで終身雇用制度が役に立ちました。従業員にとっても、これだけのメリットがあれば長期的に会社に残りたいというインセンティブになり、労使双方にメリットがありました。この効果は、高度成長時代の労働力確保においても同様に機能しましたが、一方で労働組合の力が強くなり、企業での整理解雇が制限されることになりました。

この間に核家族化が進み、地方では高齢者を扶養する担い手が減少したことで、社会として高齢者を扶養するというニーズが生まれ、年金制度ができました。しかしバブル崩壊以降の低成長・デフレ経済下で、これらのシステムにほころびが出始めたのです。そこで正社員の終身雇用を守るために、派遣労働者を採用するようになりました。有期契約で従業員を採用できて、雇用調整が簡単である半面、結果として正社員自体が減少し、ワーキングプアと呼ばれる働く貧困層が生まれました。数十年後、彼らが高齢者の貧困層になることは目に見えています。

「年金に頼れない」という話をよく聞くのですが、そもそも公的年金は現役世代の収入の3割程度を保障するシステムであって、これだけで悠々自適のリタイアメントを過ごす設計にはなっていません。制度が充実しているカナダの公的年金ですら似たような水準です。ここを理解しないと年金に期待し過ぎることになります。公的年金でまかなえるのは3割のみで、残りは貯蓄、退職金、あるいは私的年金に頼ることになります。公的年金も、急激な少子・高齢化による給付ストレスで支給額を減らそうとしています。老後の蓄えがない人はもう、生活保護くらいしか頼るお金がありません。

ただし、考えてみれば年金と貯蓄と退職金だけで老後の約25年間を全く働かずに暮らすのは無理があります。それに、平均寿命が90歳近くになれば、70歳、80歳でも元気で、仕事だってできます。実際に厚生労働省の調べでも、70代で働きたい人が50%以上にのぼっています。

雇用形態も変わってきています。ファストフードチェーン店、モスバーガーの取り組み「モスジーバー」がその一例です。もともとは、若者のアルバイト不足を補うために、高齢者も採用してみてはどうか、という話だったのですが、実際にやってみるといろいろな恩恵が出てきました。彼らは遅刻や欠勤が少なく、経験も豊富な頼れる存在で、さらに同世代である高齢者の顧客も増えたそうです。 画一的な終身雇用制度に基づいたままで雇用形態の多様化を図るのは窮屈ですから、労使双方で終身雇用制度に代わる制度を作る必要があります。そのトリガーになりうるのは、同一労働・同一賃金制度です。既に欧米では当たり前ですが、これによってワーキングプアの解消や高齢者、女性の社会進出を促すことにもなります。

欧米の先行事例では、有期契約も参考になります。解雇の際の金銭的な保証制度を設けることで、雇用調整ができるようになる企業側はもちろん、従業員にもメリットがあります。外資系企業では既に有期契約が一般的で、成果をあげれば継続的に仕事を続けられます。

生涯で勤める企業は1つだけ、という従来の日本のシステムにおいては、新入社員は新卒者を雇って、ずっと育てていくものです。このシステムには、もともとジェネラリストが念頭にあり、スペシャリストという考えはあまりないように見受けられます。

冒頭で「日本では、業界にプロがいない」と申し上げましたが、終身雇用制度が変われば、プロも会社にずっといられるし、外部からも採用できます。また、せっかく投資の知識・経験を蓄積しても、数年で担当者が異動してしまうことがあります。こうした人事ローテーションも悩ましい問題ですが、これが変われば企業にとっても望ましいことです。

有期契約なので高齢者向けのポジションも生まれます。中途採用が普通になり、また、自分が退職したい時に退職できるようになれば、定年退職という考え方も変わってきます。さらに成果報酬になれば、減点主義にならず、プラスの評価もできます。雇用の流動化によって、ベンチャー企業で高齢者が働くことも、ミドル・シニア層が転職・起業することも増えるでしょう。年金の払込者が増えれば、中間層も厚くなり、老後の資金の準備が可能になります。それが年金制度の持続的維持にもつながります。

そうすることで、雇用の維持を最優先するあまり、経営危機に陥るといった事態も避けられるはずです。日本の企業経営がもっとダイナミックになり、経済が活性化するきっかけになるのではないでしょうか。

とはいえ、90年近く続いてきた雇用習慣はそう簡単には変わらないでしょう。変わるには何らかのトリガーが必要で、そのトリガーには労使双方のメリットが必要です。政財界、労働組合、学界も含めて解決策を考えていく必要があります。

森本 晴久 氏
アストリアコンサルティンググループLLC
マネジング・ディレクター 創設者代表
森本 晴久 氏
アストリアコンサルティンググループLLC
マネジング・ディレクター 創設者代表