老後の生き方についてみなさんが考える前提として、日本社会の今後の変化について、大きく2つの観点から見通しを紹介します。
世界は「飽和」に近づいている
1つ目は、年齢などにとらわれずに、より自由で多様な生き方を選択できる社会の構築に向けた取り組みについてです。
まず世界全体の状況を見渡すと、「飽和」というキーワードが浮かんできます。20世紀に入り、先進国を中心に豊かさが実現されました。平均寿命は20世紀初頭には31歳ほどでしたが、それが今では72歳にまで延びています。おそらく将来的には100歳ほどで「飽和」するでしょう。
人口についても、20世紀初頭には世界で16億人でしたが、現在は74億人まで増えています。オーストリアのイーアサ研究所によれば、世界の人口は21世紀末頃に96億人ほどでピークを迎えて「飽和」し、その後は減少に転じると予想されています。
人工物についても「飽和」が近づいています。たとえばクルマの保有割合は2人あたり1台程度がピークになりそうです。日本においては、ビルの床面積や住宅の数がほぼ飽和に近いといえます。そして人工物の飽和に応じ、物質も「飽和」するでしょう。先進国ではすでに鉄が飽和しており、おそらく2050年頃には世界中でこれ以上の鉄は不要という状態を迎えるという予想があります。
「飽和」の時代を迎えれば、世界では物を所有することを欲する人が減るでしょう。人間の欲求は、今後は「自己実現」に向かっていくと考えられます。自己実現のあり方は1人ひとり異なりますから、将来に向けて重要なのは、「自由で多様な生き方」の機会を提供する社会を構築することではないでしょうか。
自由で多様な生き方の実践へ
こうした社会への道筋はいくつかの事例に見て取ることができます。
例えば、産業用冷凍機などを手がけて成長を続けているグローバルメーカーの前川製作所には、実質的に定年がありません。実際に93歳の人が働いていたこともあります。同社には、いわゆる現役世代だけでは知恵や経験が足りず、また現役世代は日々の業務で多忙な中、経験や知恵を豊富に持つ高齢者が権限を持たず一緒に働くことで新たな発想が生まれるという考えがあるようです。これは「年齢の壁」を超えた多様な生き方の実践例と言えます。
また、宮崎県のベンチャー企業アラタナは、東京の先端企業と変わらないオフィス環境を構築しています。都心にいるのと変わらない条件で仕事ができて、一歩外に出れば宮崎の海でサーフィンができるわけです。これは「地域の壁」を超えた多様な生き方の実践例と言えるでしょう。
”人間の欲求は、今後は「自己実現」に向かっていくと考えられます。自己実現のあり方は一人ひとり異なりますから、将来に向けて重要なのは「自由で多様な生き方」の機会を提供する社会を構築することではないでしょうか。”
今後は、こうした思い切った試みが増え、広がっていくことが望ましいでしょう。実際、企業が自発的に起こしている変化の例もあります。
たとえば三菱総合研究所では「逆参勤交代」というプロジェクトを提案しています。これは、東京の大手企業を中心に、従業員の一部を地方に勤務させるというものです。少子化が進む中、東京の人口が増えているのは、地方からの流入が多いためです。地方の衰退は、東京にとって対岸の火事ではありません。都市部への一極集中を是正する考えに、多くの企業から賛同が集まっています。
また、IT企業では、離職率の高さが問題視されています。離職の理由は「勉強したい」「親の介護をしなければならなくなった」などさまざまですが、優秀な人材が次々に辞めていくと会社は成り立ちません。このような状況の中で、ソフトウェア開発のサイボウズは、旧来の「全員に一つの就業規則」という考え方から脱却し、一人ひとりに合った自由な就業形態を提供することで、離職率を28%から4%まで改善することに成功しています。
循環型社会は実現できる
2つ目は、環境問題やエネルギー問題に関する「持続可能な社会」に向けた歩みについてです。一般には温暖化問題や資源問題について悲観的な見方が多いのではないかと思います。しかし、私はそこまで悲観する必要はないと思っています。
たとえば高度成長期を経てドブ川と化していた静岡県三島市の源兵衛川は、個人とNPOが動きだし、企業や自治体も追随することで、清流を取り戻すことに成功しました。結果、観光客は25年間で4倍に増え、空き店舗も消えました。「エコロジー」と「エコノミー」が見事に両立された事例と言えます。
エネルギー消費に関しては、日本全体として非常にうまくやっていると思います。オイルショックが起きた1973年の日本の国内総生産(GDP)は200兆円で、現在は2.5倍の500兆円まで伸びています。しかしこの間、エネルギー消費は20%しか増えていません。また、近年GDPは年間0.5%程度のペースで増加していますが、エネルギー消費はむしろ1.7%程度ずつ減り続けています。これは、自動車などの省エネ化が進んでいるためだと考えられます。
豊かになってエネルギーは減る
出所:新ビジョン2050 小宮山宏・山田興一著、日経BP社
これらはほんの一例に過ぎません。強調したいのは、少子高齢化や地球温暖化といった課題に対し、自然科学的な希望はあるということです。再生可能エネルギーの普及などを通じて、循環型社会は実現できるのです。しかし、昨今の社会科学的な議論は、こうした自然科学的な希望を反映していないと感じます。「温暖化問題や資源問題の解決は困難だ」という前提のもとで、このままで社会は大丈夫かと論じているわけです。
フィナンシャル・タイムズ紙で米国版編集長を務めるジリアン・テットの著書により注目を集めた「サイロ・エフェクト」という言葉があります。これは、高度に複雑化した社会に対応するため、組織が細分化・孤立化すると、かえって変化に対応できなくなるという状況を指します。自然科学と社会科学といった学問分野についても、細分化と孤立化により、相互の知恵を生かしにくくなっていると考えられます。今後はこの「サイロ」をいかに埋めるかが、非常に重要ではないかと思います。
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