金を手放すべからず

2025年8月 |Russ Koesterich (CFA, JD)

(本レポートは2025年6月に発行された英語版レポートを翻訳したものです。英語のオリジナル記事はこちら

本レポートでは、金の最近の値動きと、金が引き続き投資家のポートフォリオにおいて果たす、価値の貯蔵手段としての役割について取り上げます。

主なポイント

  • 本レポートでは金は短期的なヘッジ手段としては幾分不安定ではあるものの、とりわけ地政学的な不透明感が漂う今日の不安定な環境下では、それが長期的な価値の貯蔵手段として引き続き有効であることを再確認しています。
  • 重要なのは、米国の債務の対GDP比率が上昇する局面では、金は歴史的に非線形的な反応(入力に対する反応が比例関係にない状態)を示しており、金価格は米国の債務が増加するにつれて上昇するということです。

株式は4月の底値から驚くほど急速な回復を遂げたものの、年初来では米国株式は伸び悩んでいます。世界的に見ればリターンはやや改善し、グローバル株式指数は、非常に好調な欧州市場に牽引されて年初から5%上昇しています。それでも、米国内と海外の株式市場のリターンは、金のパフォーマンスと比べればいずれも微々たるものです。

直近の高値から下落したとは言え、金は今でも年初から約25%上昇しています。筆者はこのリターンが年後半も続くとは想定していないものの、ポートフォリオの分散のため、金の小規模なポジションを維持する方針です。

前回1月に金について取り上げ、その際、金は短期的なヘッジ手段としては不安定であるものの、価値の貯蔵手段としては有効だと示唆しました。現在記録的な政府債務と国際貿易の痛みを伴う変化の両方への対応に苦心している投資家にとって、この特徴は特に重要です。米ドルにも強い下押し圧力がかかっているという事実は、筆者の主張を補強するものです。

不透明感の高まりがボラティリティの上昇につながる

1月の時点で、投資家は、トランプ米大統領が発表した関税の規模の大きさと影響の範囲に対する準備ができていませんでした。その後関税の多くが先送りされ、これまでのところ経済に大きな影響は出ていないものの、政策の不透明感は極めて高いままです。

過去を振り返ると、投資家が政府の政策について混乱し、確信を持てない時期には、株式のボラティリティが上昇する傾向にありました。年初からそうであったように、ボラティリティが高い局面では、金が株式をアウトパフォームするのが一般的です。

より長期的に見れば、さらに差し迫った問題があります。巨額の政府債務が今も拡大し続けている点です。投資家が注目しているのは米国の財務状況ですが、特にイタリアや日本など、他の国々でも公的債務が国内総生産(GDP)を大きく上回っています(図表1を参照)。

図表1:政府債務

図表1:政府債務

出所:LSEGデータストリーム、国際通貨基金(IMF)、ブラックロック・インベストメント・インスティテュート。2025年5月20日現在
注記:上記の図はGDPに対する債務総額の割合を示しています。破線はIMF世界経済見通しにおける予想を示しています。

特に懸念されるのは、米国の公的債務の増加です。米国債券市場の規模の大きさと準備通貨としてのドルの地位を背景に、金価格と米国の公的債務水準との間には歴史的に強い関係があります。米国の債務の対GDP比率が上昇すれば、通常、金価格も上昇します。より重要なのは、金と政府債務はこれまで非線形的な関係にあったことです。言い換えると、公的債務が対GDP比100%に接近する(そして今や100%を超える)と、金価格は上げ足を速める傾向にあります。

長期保有資産としての金

1月に指摘したように、投資家は、金が日常的なヘッジ手段として機能することを期待すべきではありません。むしろ最近はどの日や週を見ても、金相場は株式と同じ方向に動いています。とは言え、金の価値は短期的なヘッジとしてではなく、将来のための長期的な価値の貯蔵として見るべきと思われます。この黄金色の金属はすでに大幅に値上がりしていますが、より長期的な視点で考えれば、政策の不透明感が高まっていることと、債務が記録的な水準まで拡大していることから、ポートフォリオでいくらかの金を保有しておくことは理に適っていると思われます。

 

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