~ブラックロックの取り組み~

米・欧・日のラウンドテーブルから
浮かび上がった世界の高齢化問題に
おける10大ポイント

前述のニューヨーク、ロンドン、東京におけるリタイアメント・ラウンドテーブルの議論から浮かび上がった10個の重要ポイントをご紹介します。

解決策は、多分野にまたがる幅広い視野で考えるべきである

参加者の方々から当ラウンドテーブルの感想として多くいただいたのは、高齢化に関わる様々な分野の専門家が1つの会場に集まったことは大きな意義があり、そして前例のないことだったということでした。金融や医療、テクノロジーなどの専門家の方々の議論は往々にして分断され、お互いに意見交換することは少なく、問題がどのように相互に影響し合っているのかを理解することは困難です。「退職パズル」とも呼ばれる問題の解決には、広範囲にわたる専門家の緊密な連携が必要です。例えば、長期介護の問題には医療、財務、テクノロジー、公共政策面の課題があり、そのすべてに一致結束して取り組まない限り、効果的な解決策は見いだせません。政府や公共機関(例えば、年金や医療を担当する省庁など)の間でも連携を深め、資源や専門知識を共有する必要があります。

伝統的なリタイアメント(退職)という概念自体が、もはや時代遅れである

すべてのラウンドテーブルで一貫して最も強く打ち出されたテーマは、伝統的な「リタイアメント」という考え方は、時代遅れだということです。特に、労働者は65歳で退職したいはずだ(またはそうさせるべきだ)という考えは、寿命が延び、年齢を重ねても健康を保つ人が増えていたり、高齢者の割合がますます高くなりつつある時代には、もはや意味をなしません。

「リタイアメント後」の期間が長いことは好ましくないだけでなく、ほとんどの労働者にとって、40年の現役時代の間に、ともすれば30年以上のリタイアメント後の生活への十分な備えができると考えることは、非現実的です。特に、企業レベルでの定年については、見直すべき点は多いでしょう。

また、現役時代の中で、休職やパートタイム労働などのフレキシブルな働き方を可能にしていくことも重要だと考えます。生涯にわたる教育や再訓練の機会を増やし、徐々に就業時間を減らしたり責任の軽いポジションに異動したりするなどの「フェードアウト退職」を可能にし、ある年齢で強制的に仕事を辞めざるをえない状況を変えていく必要があります。

日本では、「終身雇用」が多くの大企業でいまだ一般的であるため、変革には多くのチャレンジがあるでしょう。

リタイアメント(退職)を遅らせることは、計り知れないメリットがある

研究によれば、退職を遅らせることは労働者にも、企業にも、経済全体にもメリットがあります。仕事を続けることは、精神面の健康を増進し、それは肉体的な健康にもつながります。

働くこととそれによる健康は、金銭面の安定にもつながります。例えば、老後の家計を改善させる最も良い方法は、少しでも退職を遅らせることです。

日本では、退職を遅らせようとする機運が高まっています。これは、文化的慣習の変化によるものであり、高齢者に対する若い世代の家族からの金銭的な支援が開始される時期が益々遅くなり始めているためです。例えば、かつては60代前半には開始された支援が、現在では80歳近くになって開始されることが多くなっています。しかも、その支援額は減り続けているのです。

また、企業に関しては、従業員が様々な世代から構成されている(高齢者も若年労働者もいる状況)方が、世代が集中しているケースよりも生産性が高いことが分かっています。 高齢の労働者を維持することは、特に若い世代には不足している熟練労働者の「頭脳流出」を防ぐことにもつながります。労働者がより長く働くことで、全体的な生産性やGDPが向上することも研究で分かっています。実践に至っているケースはまだまだ少数であるため、今後、変革が求められるでしょう。

テクノロジーがもたらす恩恵と意図せざる影響を考える

テクノロジーは、リタイアメントに関わる様々な側面を大きく変える可能性を秘めています。昨今話題の「ロボット・アドバイザー」は、従来のアドバイザーのコストの何分の一かで、何百万という人々に資産運用の助言を行うことができます。貯蓄と投資だけでなく、日本が先駆けである「医療・介護ロボット」は、医療・介護コストを大幅に削減することができます。

例えば、日本のサイバーダイン社は、脚が不自由な方を治療するロボット・テクノロジーだけではなく、介護現場や物流、建設現場等における重作業の際にかかる腰の負荷を低減することで作業に従事する女性や高齢者も楽に安全に継続して働くことを可能とするテクノロジーも開発しています。

一方で、生身の人間とのコミュニケーションが減ることで、認知機能が低下しかねないと警告する人もいます。しかし、テクノロジーが作り出す、あるいは増幅させる問題にテクノロジーそのものが答えることもできるかもしれません。

例えば、自動運転車により、高齢者が家族や友人とのコミュニケーションを保つことができるかもしれません。意図せざる影響に注意する必要はありますが、総じて見れば、高齢化が進むなかでテクノロジーがクオリティ・オブ・ライフを大幅に向上させる可能性は、おそらくマイナスの影響をはるかに上回るでしょう。

伝統的なリタイアメント(退職)という概念自体が、もはや時代遅れである

これまで金融業界では、コミュニケーションの向上が退職準備の改善に結びつくのか疑問を持っていましたが、参加者の方々から具体的なアイディアをいただきました。金融機関や企業が暴利をむさぼっているのではないかという間違った思い込みから退職後のための投資を避けている労働者との信頼関係を再構築する必要性です。

関係を築くための共通の要素は、簡潔でわかりやすい説明、そしてライフ・ステージに応じて適切な提案を行うことです。

例えば、若い労働者に対し「退職」という言葉を使うのは、あまりに遠い目標であるため効果的ではありません。退職に近い世代の労働者のほうが退職に関する懸念に直接訴えるメッセージに反応を示します。この点は、金融業界が改善していかなければならない点です。業界全体が発信するメッセージを見直し、リスクを負う主体―そして意思決定の責任―が機関投資家から、投資のノウハウや高度な知識を持っていない個人へシフトしなければならないことを踏まえ、本格的に変わる必要があります。

規制により、退職に備える人が助言を得にくくなっている

退職制度が個人に対して想定することと、実際に個人が利用できるサポートの間のギャップが年々広がっており、特に米国においてこの傾向は顕著です。この30年余り、確定給付プランが相対的に劣勢になり、確定拠出プランが拡大する中、政府、企業や関連機関は、退職資金準備に伴うリスクを個人へ移転させています。同時に、受託者責任の基準がより厳しく複雑になり、それが業界の専門家が提供できる助言を制限する形になっています。リスクが個人にシフトされるのであれば、利用しやすい専門家の助言が提供されるべきですが、今のところ規制のあり方は、マイナスに働いているようです。

格差の拡大?

寿命が延びるに従い、社会経済的な格差の拡大が起こってしまう可能性があります。ほとんどの先進国で、20世紀半ばから格差が大幅に拡大しています。また、高齢になってからも健康を保てることは、一般的に財産と教育水準に比例しています。この問題を解決する万能薬はありませんが、政策担当者がこれを助長するような政策を避けることはできますし、またそうするべきです。例えば、多くの先進国は、金銭的に余裕のない層(まだ現役で、平均寿命が比較的短い層)が余裕のある層(税金でまかなわれる国家年金プランにも助けられて、何十年という退職後の安定した生活を享受できる層)の老後を支えるという構造へ向かっているようです。この傾向を踏まえ、国民年金の資金手当や給付のあり方は見直されるべきかもしれません。

日本を見てみると、識者の中にはこの不公平に関してやや違ったアプローチをとり、物質的な富とクオリティ・オブ・ライフとの対比として捉えている人もいます。人口の増加が止まった社会において、3台目の車がいるものか、それとも社会の本当の豊かさは経済的な尺度ーGDPーではなく私たちの存在そのもののクオリティに焦点を合わせたもので測るべきか、様々な考えがあるでしょう。

個人が退職に関して持つべき責任

多くの国や地域で、この数十年の間に退職に関わる責任―意志決定、計画、結果、つまりすべてーが機関から個人へ移されてきました。公的であれ民間のものであれ、確定給付プランは減少傾向にある一方で、確定拠出プランは徐々に拡大しましたが、確定拠出プランでは資産の管理や専門知識など、個人に多くが要求されているのです。しかし、この環境下においても、政策、雇用主によるインセンティブ、投資商品、個人向けツールや投資教育は、十分に整備されているとはいえません。

ほとんどの先進国において、個人は新しく課された責任をようやく認識し、関心を持ち始めたばかりです。問題をさらに複雑にしているのは、多くの雇用主が、この新しい環境下で一体どのような役割を担うべきなのか十分に理解していないことです。

近年、米国や英国でこういった問題が表面化し、特に英国は米国より一歩先を行く形で、年金保険商品の偏重を改めただけでなく、「知識のギャップ」に取り組むための先進的な施策をとっています。平均寿命が世界で最も長い日本では、終身型の年金商品が少ないという特徴があります。そのような商品を導入することは金銭的な安心感を高めるでしょうが、一方で、個々人の金融知識を大幅に高める必要が出てくると考えます。

認知症―隠れた難病

認知症の発症率はほぼ高齢化に比例しており、高齢化から起こる最も深刻な問題といえるでしょう。平均寿命が世界で最も長い日本では、認知能力の低下が退職者が最も心配する問題の1つとなっています。しかし、これは世界中で共通の問題です。アルツハイマー病には今も治療法がなく、これまでのところ製薬会社も他の分野への投資のほうがリターンが確実に見込めるため、アルツハイマー病の研究にはあまり積極的ではありません。しかし、兆候を早く見つける方法は存在します。それは、症状を改善させることも期待できるため、もっと広められるべきです。

この病気は、トラウマや苦痛に加え、経済的な悪影響も引き起こします。経済に対する直接・間接の影響により、8,180億米ドル(2015年)の損失が発生しているとも推定されています。認知症は社会、経済にも多くの打撃を与えかねないのです。

人口動態から得られる恩恵

人口動態の変化や高齢化により純生産人口や消費者の構成が変化し、それにより国全体の経済が影響を受けています。簡単に言えば、労働に参加する前の若い世代は純粋に消費者です。年齢が進み仕事を始めれば、経済成長に対する純生産者(消費よりも多くを生産)になります。そして退職すれば(または生産年齢のピークを過ぎれば)、公的にも私的にも再び資産の純消費者になります。高齢化や少子化は、生産者と消費者の割合を変化させます。消費者よりも生産者が多い状態は経済的に非常に望ましく、社会は、人口動態から配当のような恩恵を得ていると見なすことができます。労働力に加わる人よりも外れる人が増えるにつれ、そのような高齢の消費者は巨額の財産―これまで蓄えた貯蓄や資産―に加え、年金や家族からの支援を含めた公的および私的な恩恵を期待できます。退職する層が多額の資産を蓄えている国では、そういった資産を国内または世界経済の中に還元することにより成長を促進することができます(特にそういった資産がインカムを生まないキャッシュのような商品に投資されていれば)。こういった潜在的な資産は、世界の資金の流れを左右する潜在力を持っており、高齢化が世界経済や地域経済の活力を高めることが期待できるのです。