LARRY FINK’S LETTER TO CEOS 2020

金融の根本的な見直し

ブラックロックは一運用会社として、自らのための運用は行わず、全てお客様のために投資をしております。本日はそうしたお客様に対する受託者責任を果たすためにも貴殿に書簡をお送りしております。はじめに、ブラックロック・グループ(以下、弊社)が運用する資金は私共自身のものではなく、多くの国々の人々からお預かりしているご資金であり、それらの方々は老後の資金のように長期的な資金を確保されようとしています。そして私どもは貴社をはじめとする何千もの企業の実質的な株主である、こうした機関投資家、個人投資家に対して長期的な資産価値の向上を図るという大きな責任を負っております。

さて、気候変動は、長期的な企業活動において極めて重要な意味を持つようになりました。昨年9月に何百万人もの人々が気候変動対策を訴えた際、その多くの人々が、気候変動が経済成長と繁栄にいかに深刻かつ持続的な影響を与えるかを強調しました。そしてそのようなリスクは今の所、金融市場に適切には反映されていません。一方で、こうした気候変動に関するリスク認識は急速に変化しており、今、金融の仕組みは根本から見直される事を余儀なくされていると思います。

気候変動リスクの兆候が顕在化していることにより、投資家は現代金融理論を再検討し始めています。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、ブラックロック・インベストメント・インスティテュート(BII)やマッキンゼーなどの様々な機関による分析のおかげで、私たちはこうした気候リスクが自然界の現象と経済成長を支えるグローバルなシステムにどのような影響を今後与えるかについて徐々に理解を深めています。

例えば、都市は気候リスクによって地方債市場の前提が変わった場合でもその必要とされるインフラ整備のために資金調達が今まで通りできるのでしょうか?また、現代のとても重要な金融の仕組みである住宅ローンの市場において、もし貸し手が30年という長い期間における気候リスクの影響を正しく予測できない場合、あるいは影響を受ける地域における有効な水害・火災保険市場が存在しない場合、どのようなことが起こるのでしょうか?干ばつや洪水により食品価格が上昇したら、インフレや金利水準はどう変動するのでしょうか?新興国市場の生産性が猛暑などの異常気象の影響で低下した場合、どのようにして経済成長を予測すれば良いのでしょうか?

投資家はこうした問題について考慮し、気候変動リスクを投資リスクとして認識するようになってきています。実際、世界各地の弊社のお客様の多くは真っ先に気候変動を話題に取り上げています。欧州であろうがオーストラリアであろうが、南米であろうが中国であろうが、またフロリダであろうがオレゴンであろうが世界中の投資家から、ポートフォリオをどのように見直すべきか、という質問を受けます。こうした投資家は気候変動による直接的な影響のみならず、各国の気候変動に関する政策がどのように世界の物価やコスト、需要にインパクトを与えるのかを理解しようとしているのです。

こうした問題意識はリスクや資産価値の根本的な見直しを促しています。資本市場は将来のリスクを先取りした形で織り込むため、気候変動そのものよりも早い時期にそのアロケーションを変更するでしょう。すなわち近い将来、おそらく大半の人々が予想しているより早いタイミングで大規模な資本の再分配が起きるのではないでしょうか。

 

気候リスクは投資リスク

この移行期を乗り超えるためにお客様を手助けするのが受託者である私たちの責務です。サステナビリティと気候変動を考慮したポートフォリオは、よりよいリスク調整後リターンを投資家にもたらすと確信しています。また、投資リターンに占めるサステナビリティの影響が大きくなるのに伴い、お客様のポートフォリオ設計においてもサステナブルを重視した投資が最も重要な要素になるのではないかと考えております。

本日付で、弊社のお客様に対して別途送付した書簡において、サステナビリティを弊社の投資方針の中心に据えるためのさまざまな施策を明記しました。具体的には、ポートフォリオ構築とリスク管理における不可欠な要素としてサステナビリティを位置付けること。あるいはサステナビリティ・リスクが高いとされる資産を投資対象から外す、例えば一般炭の生産に関わる企業を投資対象から除外することを可能とする新たな運用商品の提供。そして、弊社のスチュワードシップ活動におけるサステナビリティ課題への取り組みの強化と活動に関する透明性向上などを推し進めます。

今後数年間における最も重要な焦点の一つは、気候変動に対する各国政府の対応の規模と範囲です。これにより、低炭素社会への移行スピードが決まります。気候変動問題を解決するためには、パリ協定で定められた目標に沿った各国政府の国際協調による取り組みが不可欠です。

一方で、どのようなシナリオをたどるにせよ、この移行には数十年を要するでしょう。近年の急速な技術革新にもかかわらず、我々の日常生活にとって不可欠な存在である炭化水素を代替できるような費用効率を有する要素は今日の科学ではまだ開発されていません。また、エネルギー構成の転換においては、経済、科学、社会、政治的な現実も十分認識する必要があります。政府と企業は、公正かつ適正な形で、移行の実現に向けて協働していく必要がありますが、低炭素社会実現に向けて、社会の一部や発展途上国を置き去りにして進んでいくわけにはいきません。

低炭素社会への移行は政府のリーダーシップのもと進められるべきですが、同時に、企業や投資家にも果たすべき重要な役割があると考えます。こうした責務を果たすべく、ブラックロックは気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の創設メンバーとなっています。また弊社は、国連責任投資原則ならびに炭素価格制度の導入を求めるローマ法王の2019年の回勅に署名しています。これらの活動は気候変動を食い止めるための取り組みとして、極めて重要です。

弊社がフランスおよびドイツ政府、世界的な基金との協力の下、気候変動ファイナンス・パートナーシップ(Climate Finance Partnership)を設立したのもその一環です。これはインフラ投資のための資金調達に関する仕組みの改善に向けた政府と民間部門との連携の一例です。各都市にとって、道路、下水道、輸送機関などのインフラ整備は喫緊の課題となっています。既存のインフラの多くは新たな気候の実態に沿わない気候条件や耐久性を前提に構築されているためです。

短期的には、気候変動リスク低減に向けた対策が経済活動を刺激する可能性があります。一方で、私たちは究極的かつ長期的な課題に直面しています。それは、現時点では、気候に関するどの予測が正確であるのか、また、その影響について見落としている点はないか、知るすべがないという課題です。さはさりながら、大きな方向性については、疑問の余地はありません。各国政府、企業、株主の一人ひとりが、気候変動に関する課題に取り組む必要があります。

 

株主への情報開示の改善

企業が様々なサステナビリティ課題に対してどのような対応をしているかについて、全ての投資家ならびに規制当局、保険会社、ひいては一般市民が、より明確に把握するニーズがあると考えています。それを可能とする情報については気候変動に関する情報にとどまらず、例えば従業員のダイバーシティ、サプライチェーンのサステナビリティ、顧客の個人データ保護など、あらゆるステークホルダーに対する企業の対応に関する情報を対象とすべきです。企業の成長見通しは、その企業がいかにサステナブルな形で事業を運営しているか、いかにすべてのステークホルダーに貢献しているか、という点と切り離して考えることはできません。

ステークホルダーへの対応と企業理念の実践は、企業が社会における自身の役割を理解する手段として、より一層重要になっています。過去の書簡で言及した通り、企業は、企業理念を持たずして、また広範にわたるステークホルダーのニーズに配慮せずして、長期的な収益を実現することはできません。配慮なく製品価格を引き上げる医薬品メーカー、安全を軽視する鉱山会社、顧客本位を実践をしない銀行は、短期的にはリターンを最大化することができるかもしれません。しかし、これまで再三目の当たりにしてきたように、社会に損害を与える企業はいずれ自らの行為に対するしっぺ返しを受け、株主価値を棄損することになります。対照的に、強い企業理念を掲げ、ステークホルダーに真摯に向き合う企業は、顧客とより深くつながり、絶えず変化する社会の要求に適応することができるでしょう。究極的には、企業理念が長期的な収益性の源泉となるのです。

ステークホルダーへの対応、あるいはサステナビリティ課題に向けた適切な対応を怠る企業や国に対して、いずれ市場は懐疑的な見方をとるようになり、その結果、資本コストは上昇することになります。一方で、透明性を重視し、ステークホルダーに真摯に対応する企業や国は、質が高く忍耐強い資本を含め、より効果的に資本を集めることができます。

企業による情報開示はすでに大きな進展が見られます。多くの企業が経営戦略にサステナビリティの観点を取り入れ、情報開示においても模範的に対応しています。しかしながら、より広範囲にわたる標準化された適応が求められます。完璧な枠組みは存在しませんが、米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)により、労働慣行からデータ保護、企業倫理に至るまで、広範にわたるサステナビリティに関連する情報の明確な開示基準が示されています。また、気候関連リスクの評価と開示ならびにその管理に不可欠なガバナンス問題については、TCFDが有効な枠組みとして提示されています。

企業が、こうした基準に則った開示を行うためには、膨大な時間、分析、努力を必要とします。弊社自身、望ましいと考える水準には達しておらず、自らの情報開示を改善するために努力を続けています。弊社のSASB基準に準じた開示情報は弊社のウェブサイトに開示されています。また、2020年末までにTCFD提言に沿った開示を実施する予定です。

弊社は、TCFDおよびSASB等のサステナビリティに関連する情報開示の進捗に関して、数年間にわたり投資先企業と対話を続けてきました。今年は、お客様に代わって弊社が投資している企業の皆様に、以下の点をお願いしたいと思います:(1)業界別のSASBガイドラインに従った情報開示が未完の場合、年内に開示を行うこと、あるいは貴社の事業内容に沿った形での同様のデータの開示をすること(2)TCFDの提言に沿った気候関連リスクの情報開示が未完の場合、これを実施すること。これには、TCFDのガイドラインに明示されている、世界の温暖化を2度以下に抑えるというパリ協定で掲げられた目標が完全に達成されるという前提のシナリオを踏まえた貴社の事業計画が含まれます。

弊社では、こうした情報開示および投資先企業との対話の内容に基づいて、企業がそれぞれの事業に係るリスクを適切に管理・監視し、十分な将来計画を策定しているかどうかを評価したいと考えています。しっかりした情報開示がなければ、弊社やその他の投資家は、その企業が適切なリスク管理を怠っていると結論付けざるを得ないことになりかねません。

企業が重要な経営課題に効果的に対応していない場合、取締役がその責任を負うべきと考えます。昨年、弊社は2,700社の企業の4,800名の取締役に対して反対(もしくは支持を留保)しました。企業および取締役会が有効なサステナビリティ情報の開示や枠組みの導入を怠っていると判断した場合、弊社はその責任を取締役に問うことになります。サステナビリティに関連する投資リスクが増大する中、情報開示に関する対話等を通じた従前からの啓発活動を踏まえ、投資先企業がサステナビリティに関連した情報開示、その根本となる事業活動や計画において十分な進展を示せない場合には、経営陣と取締役に対して、反対票を投じることについて、より積極的に検討します。

 

サステナビリティをブラックロックの投資の新たな基軸に

サステナビリティを考慮したポートフォリオが投資家によりよいリスク調整後リターンをもたらすと確信しています。サステナビリティは今後、リスク管理、ポートフォリオ構築、運用商品の設計、企業との対話の中心となるでしょう。
サステナビリティをブラックロックの投資の新たな基軸に

 

責任ある透明性ある資本主義

私は、40年にわたり金融事業に従事する中で、1970年代と1980年代初頭のインフレショック、1997年のアジア通貨危機、ITバブル、世界金融危機など、数多くの金融危機や課題を目の当たりにしてきました。それらの中には、何年間も続いた問題もありましたが、基本的に、どの危機も短期的な性質のものでした。しかしながら、気候変動は違います。仮に予想される影響のうちほんの一部だけが現実のものとなったとしても、気候変動ははるかに構造的で、長期的な危機です。企業、投資家、そして各国政府は、大規模な資本の再配分に備えなければなりません。

世界中のお客様との対話を通じて、ますます多くのお客様がサステナブルな運用戦略に資金を再配分することを検討していることが明らかになっています。世界全体の10%、あるいはわずか5%の投資家が実際にそうした行動をとった場合でも、大規模な資本移動が生じることになるでしょう。そして、今の若い人々の多くがいずれ政府や企業で指導的な地位に就くのに伴い、その勢いは増すでしょう。現に若者が先頭に立つ形で、弊社を含む機関投資家に対して気候変動に関連した新たな課題への対応を求めています。彼らは、透明性の確保と実際の行動という観点から企業や政府にますます多くを求めるようになっています。今後数十年間でミレニアル世代へ数兆ドル規模の富の移転が進む一方で、こうした世代がCEOやCIO、政策立案者や国家の指導者になるにつれて、世界のサステナビリティに対するアプローチはさらに大きく変化することになるでしょう。

大規模な資本再配分が迫る中、企業は株主に対してその備えができていることを明確に示す責任と経済的な義務を負っています。将来的には、サステナビリティの課題に関する透明性の向上がすべての企業にとって資本を惹きつけるための重要な要素となることが予想されます。これにより投資家は、どの企業がステークホルダーにきちんと対応しているか識別することができるようになり、それに応じて、投資配分を見直すことができるようになります。しかし、透明性の改善そのものがゴールではありません。透明性ある情報開示は、より持続可能で包摂的な資本主義を実現するための手段であるべきです。企業は、企業理念を掲げ、株主、顧客、従業員、地域コミュニティなど、あらゆるステークホルダーに資するために思慮深くかつ真摯に取り組まなければなりません。そうすることにより、貴社、ひいては投資家、従業員、そして社会全体が長期的な繁栄を手にすることができるでしょう。

ブラックロック・インク
会長兼最高経営責任者(CEO)
ラリー・フィンク

Larry Fink
Chairman and Chief Executive Officer

MKTGH0120A-1074730

ブラックロックとサステナビリティのかかわり

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