~医療、介護、社会構造から高齢化とリタイアメント問題を考える~

人とテクノロジーが支え合う
医療・介護イノベーション

2016年3月 山海 嘉之 氏

通常のロボット技術は、単純にプログラムに従って動く技術でしかありません。私たちは、脳神経系など人間の深いところとつながりながらテクノロジーが機能していくものを作り上げています。ただし、何でもテクノロジーで補えるようにしようとすると、いつまで経っても完成しません。ロボットスーツ「HAL®」は1つの象徴的なキーワードですが、「テクノロジーも頑張るが、人にも頑張ってもらう」。そうすると、一番苦しいところを乗り越えられる。重介護ゼロ®社会を創ることがわれわれの1つの目標で、これを4~5年先のマイルストーンにしています。

「テクノロジーの未来を考えた時、
人とロボットが仲間として支援し合う
"テクノ・ピアサポート"を提案したい。
テクノロジーは人や社会の役に立ってこそ
意味があるのだから」

山海 嘉之 氏

私たちには、人間の脳神経系から生理系を含む身体内部の情報を扱う技術やロボット技術があります。つまり、人に対して物理的、情報的なインタラクションを起こすもののほとんど全てが対象です。しかし、これを扱う学術分野はありませんでした。専門分野を極め、その分野に特化した専門家になったとしても、実際には、複合的な内容を包含するニッチな専門の世界に放り込まれているというのが従来のあり方でした。

そこで、社会が直面する複合的課題を解決するために、人・ロボット・情報系の融合複合を意味する【サイバニクス】という1つの学術領域をつくりました。介護される側/介護する側、治療を受ける側/治療する側、また、それを支える人たちに役立つ技術として、身体機能、特に脳神経系の機能を改善・再生していく、あるいは日常の作業を支援していく革新技術を作り上げていくことが狙いです。

技術を生み出していくには、出口戦略のイメージを持った方がいいでしょう。かなり先の未来の話をしているように感じられるかもしれませんが、いくつかは既に出荷が始まっています。出荷しながら経済サイクルを創っていくことが社会に組み込んでいくことになるので、頑張ってやっています。出口戦略の最後の部分では、例えば規制当局がうまく管理しないと、世界的な産業に成長するような技術でも勢いを失いかねません。

私たちが出荷しているものには全て通信機能が付いており、人の身体的、生理学的な情報が全部集まってきます。スタートしたばかりですからデータの量はさほど多くありません。しかし、もっと時間が経ってからだとその情報を扱おうとしても限界がでてくるでしょうから、私たちが集積する身体・生理・生活に関するビッグデータを今からきちんと扱っていくことが重要です。こうしたものをしっかりと仕上げると、医療や福祉や生活、さらには工場や建設現場も含めたビジネスフィールドなど、幅広い分野に横展開が可能になります。

脳神経系の情報とロボットがつながることで、体が動かない状況でも人間の意思だけでロボットをコントロールできます。テクノロジーが人と密着して、一体的に機能するものが出来上がるのです。さらに通信機能を使うことによって、AさんとBさんが装着し合うだけでお互いの技能を伝授し合うこともできます。

こうしたものがきちんと社会で使われるためには、国際規格を通過させないといけません。革新技術というものはその革新性ゆえに、世界にはルールが準備されていません。かといって、誰かがルールを作ってくれるのを待っているわけにはいかないので自分たちで作る側にまわります。

つまり国際規格を作るエキスパートメンバーになってルールを策定します。そうすることで認証機関がそれを参照してくれるので許認可がもらえるようになります。こうしたことを一つ一つやり抜かないといけないのですが、ようやく道筋が見えてきました。

ドイツでは脊髄損傷等を対象としたHALの機能改善治療に対し、公的労災保険が適用されています。例えば脊髄損傷の方ですが、身体機能が8から18(健常者は20。0から20の21段階)に改善した例が米国の著名な神経学会誌でも報告されています。HALを使って治療する場合、HALを外した時に本人の機能がどう変わったかが重要です。当初は介護者がいなければ立つことも歩くこともできなかったのですが、治療が終わる頃には歩いてトイレにも行けるようになりました。これだけでも全然違います。職場に復帰した後も、ある程度自立度を高めるだけで次に進めます。介護者は常駐型勤務から巡回型勤務に変わるので、公的な費用も大幅に圧縮できます。

患者ももちろんですが、介護者もかなり大変で、7~8割が慢性的な腰痛を抱えています。そこで、腰を守りながら長く安全に仕事ができる労働環境の改善ということで、腰に装着するタイプのロボットスーツも開発しました。介護現場のほか、既に建設現場や工場などで使われています。こうした現場では高齢化が進んでいるため、安心して長く働けるということで人員の確保にもつながります。また、認知症の分野でも、私たち日本への期待は大きいです。医薬品で開拓するところはじっくりやりながら、現場についてはサイバニクスやロボット技術で乗り越えていくわけです。

サイボーグ型ロボットHALと再生医療を融合する技術の開発にも取り組んでいます。先日、世界で最も長距離で一旦切除された脊髄神経を再びつなぐことに成功しました。神経を育てるには栄養素や神経成長物質が必要ですが、今回幹細胞を使わないアプローチで成功したため、早速、iPS細胞の西の横綱である京都大学の山中伸弥先生のグループや様々な再生医療の研究者の方々もコンタクトを取ってくれました。iPS細胞に限らず、様々な再生医療との間でチームができています。神経系にアクセスできるロボットは世界にこれしかないため、「機能再生医療」という新分野として1つの大きなグループができつつあるのです。

こうした技術を本当に社会に役立つ水準まで進化させるためには、実運用する社会実装エリアを作らなければなりません。羽田・川崎地区のエリアではメディカルイノベーションを推進しますが、社会実装エリアのつくば地区では、全体で東京ディズニーランドくらいの広さを予定しており、今回その3 分の1ほどの土地を購入しました。そこにサイバニックシティを造って、私たちや、協業する人たちと社会実装を進めます。例えば独居老人の場合、健康でないと買い物すらなかなかできないものです。しかし、搬送ロボットに椅子を付けるだけで自分で買い物に行けますし、認知症の方が荷物を運ぶのをうっかり忘れても、ロボットが安全に配達してくれます。

それから、当社ではシニア世代の方も頑張っておられ、業界との調整では交渉役になってくださっているので、大いに助かっていることも申し添えたいと思います。

山海 嘉之 氏
筑波大学大学院 システム情報工学研究科 教授
筑波大学 サイバニクス研究センター センター長
CYBERDYNE株式会社 代表取締役社長/CEO
内閣府ImPACTプログラム プログラムマネージャー
(重介護ゼロ社会を実現する革新的サイバニックシステム)
山海 嘉之 氏
筑波大学大学院 システム情報工学研究科 教授
筑波大学 サイバニクス研究センター センター長
CYBERDYNE株式会社 代表取締役社長/CEO
内閣府ImPACTプログラム プログラムマネージャー
(重介護ゼロ社会を実現する革新的サイバニックシステム)