~医療、介護、社会構造から高齢化とリタイアメント問題を考える~

高齢化時代の新たな雇用のあり方

2016年3月 マイケル・ホーディン

「高齢化に関する世界連合(Global Coalition on Aging、以下GCOA)」は、5年ほど前に発足した新しい組織です。高齢化に関して、ビジネス界を代表する団体になることを目指しており、ブラックロックにもメンバーに参画してもらっています。本日のラウンドテーブル同様、GCOAにも様々な分野の専門家に関与してもらい、世界が直面する高齢化問題に取り組んでいきます。そしてGE、インテル、ファイザーといった様々な分野のグローバル企業が活動を先導しています。まだ数は少ないですが、今後増やしていきます。この分野に関心をもつ日本企業にもぜひ参加してもらえればと思います。

社会の中で高齢者をどう扱うかという問題について、これまでは主に社会福祉の観点から捉えられてきました。しかし、影響はそれだけに留まりません。高齢化を戦略的な方向性を決定するための要素と捉え、それに基づいていかに持続可能なシステム、経済成長、そして富の創造を実現できるのかを考えるべきではないでしょうか。そして、その活動の中心に位置するのは企業です。

過去2回のラウンドテーブルでいくつか重要なポイントが提起されましたが、ここでは3点を皆さんと共有したいと思います。

1点目は、人類史において素晴らしいマイルストーンに到達した、ということです。かつては年を取ること自体、夢のまた夢だったのですが、それが当たり前になってきました。まさに奇跡といえるのですが、それにどう対応すべきなのかという新たな問題が出てきました。

2点目は、高齢化は大きな成果ですが、これを次の世代までどのように維持していくのか、という問題です。1990年代に生まれた女性は、20、21、22世紀とおそらく3つの世紀を体験することになるでしょう。その時、いかに健康を維持し、金融の観点から生活を維持し、長寿を全うするかを考えなければいけません。いかにして経済、ビジネスの力を活用して高齢化に対応していくのか。現在、60歳以上の人は世界中で10億人以上います。その10億人にいかに革新的な製品・サービスを提供し、経済成長を実現していくのかを考えなければいけません。

3点目は、高齢化が進むことで高齢者と若者の比率が変わってくることです。近代化し、都市化した社会では人口減少が進んでいます。そのような中で、医療制度、退職制度、仕事のあり方、仕組みがこの先も持続可能なのかが問われています。

高齢化を考える時の最大の課題は、文化的、あるいは心理的な変化ではないでしょうか。そこで私から3つ提案します。

1点目は、退職・リタイアという概念自体を見直す時期に来ていることです。これらは20世紀の工業化社会に合わせて作られた考え方であり、21世紀のポスト工業化社会に新たな考え方を導入するべく、大きく舵を切る必要があります。

2点目は高齢化の「足切り線」という意味での65歳という数字です。「定年」は、ドイツのビスマルクが、まだ65歳以上生きられた人が少なかった1880年代に作った概念です。ダボス会議で、高齢化、あるいは人間が120歳くらいまで生きる可能性をテーマにした分科会がありました。そこでは「もう、退職という概念なんて捨ててしまおうではないか」といった提案も出されました。

3点目は、高齢化に伴ってもっと長く仕事を続けなくてはならないことです。定年になったら仕事を辞めるのではなく、ずっと働き続けることが重要です。ヘルスケアの専門家もいらっしゃっていると思いますが、長く働き続けることは健康を維持することにもなります。高齢者が働くことによる経済効果だけではなく、医療費の削減にもつながります。活動的に暮らしていけば、認知症になるリスクも減ることが分かっています。高齢になっても働き続けることについては多くの人が合意しています。そこで問題になるのは、いかにインセンティブを与えるかという点です。特に雇用主に対して、インセンティブを与えて、高齢者をずっと雇い続けたいと思えるようにするにはどうしたらいいのか。いろいろな高齢者が出てくることで保障の問題も発生してきます。また日本の場合、年功序列というしがらみから抜け出せない部分もあるかもしれません。

現在、人類には懸念すべき大きなトレンドが2つあります。1つは地球規模の環境問題です。グローバルなビジネスという観点から言えば、環境問題にしっかり取り組むことが社会にとっても個人にとっても利益に適う、という考え方は共通しています。環境問題を自分の問題として考え、どの分野にいようと環境を改善するために何かしたいと考えるわけです。

それと同じことがもう1つのトレンドである高齢化にも言えるはずです。高齢化には多くの課題がありますが、組織、社会、企業家、雇用主の考え方をこの原点に引き直していく必要があります。例えば、認知症やアルツハイマー病は社会全体の問題で、どの産業にいようと誰もが関わる問題という認識をもち、高齢化に対峙していく。自らのケアは、自分にとっても社会にとっても重要という認識を持つ必要があります。

医療にしてもロボティクスにしても、イノベーションを進める上での大きな課題の1つが規制です。それに対抗するには、組織に適切なインセンティブを与えていくことが必要です。例えばロボティクスのイノベーションを確固たるものにすべくインセンティブを与える。あるいは、アルツハイマー病の薬について規制緩和を図り、イノベーションが起こりやすくするといったことが重要です。

このように、高齢化の問題にしっかりと向き合うことが、あらゆる人の利益に適うという考え方を定着させていくことが重要です。もちろん、それをどう実現していくのかも問題なのですが、まずはこの考え方を定着させることが、継続的に取り組む上で強力な方法になるはずです。

マイケル・ホーディン 氏
Chief Executive Officer/チーフ・エグゼクティブ・オフィサー
Global Coalition on Aging/高齢化に関する世界連合
マイケル・ホーディン 氏
Chief Executive Officer/チーフ・エグゼクティブ・オフィサー
Global Coalition on Aging/高齢化に関する世界連合