~医療、介護、社会構造から高齢化とリタイアメント問題を考える~

ビッグデータ、ロボット……
新技術による「認知症」解決を

2016年3月 黒川 清 氏

高齢者が働くことは、本人が健康であれば良いことです。しかし、認知症になると認知や行動が変わってしまい、そのことが自分でも分からないため、大きな社会問題です。認知症の有病率は日本も欧米も似たような状況で、今後も認知症の人は増えると予想されています。また、認知症の半分はアルツハイマー病です。

「ビッグデータ、ソーシャルロボット、
デジタル・テクノロジー、そういった
ものをいかに活用するかが、認知症に
関する課題解決の鍵となるだろう」

黒川 清 氏

認知症の「コスト」ですが、日本においては、ここ数年ではGDPの4%、約16兆円です。医療、介護などの公的部門によるコストが約60%、残りの40%ほどが、顕在化しないコストになります。この水準は他の多くの先進国とほぼ同じ水準です。家族、特に女性がそのコストを負担しているのです。途上国になるとその水準はもっと高く、約80%以上になるでしょう。介護はどうしてもローコストで家族が担うケースが多いため、介護者の労働力、生活の質、将来の見通しなども今後の問題になってきます。

日本では「認知症サポーター」というプログラムを始めています。サポーター養成講座を受講すると、支援者の目印となるブレスレットを渡されます。サポーターは会社や学校、コミュニティで認知症の支援者となり、認知症の疑いがある人に注意を促し、介護者とも連携していきます。これが結構好評で、既に700万人ほどがサポーターとなっており、英国をはじめとしていくつもの国でも注目されています。

2013年には「G8認知症サミット」が開催されました。英国には国営医療制度があるのですが、高齢者の増加でファイナンスできるのか懸念が持たれています。こうした制度を公的部門で維持できるのか、ということです。また、新薬の臨床試験を高齢者に定量的に実施するのは簡単ではありません。高齢者が増えることを考えれば、新薬承認の基準を緩和してもいいのではないか、特許期間も10年くらいに延ばせないのか、といったことが議論されました。

サミットでは英国が「世界認知症諮問委員会(World Dementia Council、以下WDC)」の設立を表明しました。私も参加を打診され、2年間従事しました。今後はより独立した法人になって、広く非政府団体、企業なども参加するようになるでしょう。また、「欧州アルツハイマー型認知症予防コンソーシアム(EPAD)」という産官学のプラットフォームを創設して各国が課題を共有しながら取り組みを進めています。

バイオロジーやバイオテクノロジーなどと比べると、デジタルテクノロジーの進歩はめざましいものがあります。そこでこれらを使った課題解決を考えてみましょう。

1点目はビッグデータの活用です。どうすれば認知症のリスクを低減できるのかを文献レビューしています。しかし、こうしたことがビッグデータだとより明確に分かります。

2点目はソーシャルロボットです。こちらの進化も速く、介護者の生活の質を上げたり、コストを下げたりといった様々なことが期待されています。

3点目は脳・神経とデジタルテクノロジーの融合です。MITやハーバード大学などではバイオテクノロジーとデジタルテクノロジーが結びついて、“Well-Being”に関するセミナーが頻繁に開催されています。

認知症の要因にはいろいろな仮説(年齢、家族、アポリポタンパク質、教育、運動、喫煙、睡眠、トレーニングなど)があります。ただ、こうした仮説を全てテストしなくても、ビッグデータを分析し、相関関係を見出すことにより、何ができるかもっと注目すべきです。「ネイチャー」誌によると、インフルエンザについてグーグルの検索ワード(インフルエンザ、熱、アスピリンなど)を分析することで、アメリカ疾病予防管理センターの発表よりも早く、リアルタイムで病気の移動が分かるのです。

ソーシャルロボットや人工知能の研究者は、自分でプログラムを作って会話をしていく中で、プログラムを入れ替えて改善しようとします。そうするとだんだん、人工知能が自分の子供みたいになってくるそうです。ちなみに、ソフトバンクのPepperも自社で開発したのはプラットフォームで、ソフトウェアアプリは公募してコンペティションで審査しています。Pepperのソフトウェアアプリの第1回の募集で、トップに選ばれたのは認知症用のアプリでした。プラットフォームなので、アプリのバージョンが上がるにつれて、コミュニケーションの能力も、介護の能力も上がり、より人間に近いロボットになる、というわけです。

1週間連続して学生の脳の活動をモニターしたMITの論文によると、寝ている時や、研究、宿題などの時間は脳の活動がさかんである半面、授業中やテレビを見ている時は、脳の活動はほとんど見られない。おそらく受動的な刺激は脳の活性化にはならない。高齢者にずっとテレビを見せているだけなのは最悪です。授業にしても、生徒に考えさせるなどが大事なのではないか、などいくつも仮説がでてきます。こうしたデータから、どういったソフトウェアを作るのが認知症対策にもよいのか、などのヒントがでてきます。

昨日、認知症の方と話す機会があったのですが、自分で絵を描くようになってから頭がすっきりする頻度が上がったそうです。あるいは、クリエイティブな仕事をしている人は認知症になりにくい、ということが何となく分かっています。そういった、ヒントになる話を広く共有する、脳科学、バイオとデジタル、材料とエンジニアリングなどを組み合せることから、新しい認知症対策も出てくると期待したいものです。

黒川 清 氏
政策研究大学院大学 客員教授
日本医療政策機構 代表理事
Adjunct Senior Research Scientist of the Earth Institute of Colombia University(2011-)
Distinguished Research Affiliate, The MIT Media Lab(2011-)
一般社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)
代表理事・会長
東京大学 名誉教授
黒川 清 氏
政策研究大学院大学 客員教授
日本医療政策機構 代表理事
Adjunct Senior Research Scientist of the Earth Institute of Colombia University(2011-)
Distinguished Research Affiliate, The MIT Media Lab(2011-)
一般社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)
代表理事・会長
東京大学 名誉教授