~金融と投資運用の観点から高齢化とリタイアメント問題を考える~

確定拠出年金法の改正を機に考える
私的年金のあるべき姿

2016年3月 野村 亜紀子 氏

少子高齢化が進む中で、日本は人口減少と超高齢社会の到来に直面しています。賦課方式の社会保障制度は持続可能性を高めることが最優先され、十分性の確保は私的年金の役割となります。既にある制度を強化してより活性化していくことは、公的年金を私的年金で補完していく道筋として欠かせない政策課題ではないでしょうか。そこで、私的年金の一種でもある確定拠出型年金(以下DC)の現状を整理していきたいと思います。

「私的年金制度の強化は簡単ではない。
しかし、超高齢化社会に立ち向かうために、
DC含む私的年金のさらなる活性化は摸索
し続けなければいけないのではないか」

野村 亜紀子 氏

まずDCの現状ですが、日本での導入は2001年と、比較的新しい年金制度といえます。加入者は年々増加しており、現在では500万人を突破。それなりに順調に普及が進んでいる状況です。


DCにはサラリーマンが加入する企業型と、自営業者や企業年金制度のない会社の従業員が加入する個人型がありますが、実際は企業型の加入者が大半を占めているのが現状です。


DCの加入者には個人口座が与えられ、掛金が入ってきます。万が一、会社が倒産しても口座が差し押さえられることはありません。不安定な時代にあって、これは重要なポイントです。この口座上で、加入者はあらかじめ用意されたメニューの中から自分で投資商品を選びます。同じ年にキャリアを開始し、同じ掛金でDCに加入していたとしても、その人が何に投資していたかによって60歳になった時の受取額には差が出てきます。そのため、長期にわたり合理的な投資を継続することが重要になってきます。しかし、投資先のアロケーションを見てみると、加入者全体の4割弱が預貯金というのが実情です。その次に割合が大きいのは、同じく元本確保型の利率保証型保険商品です。リタイアするまでまだ時間がある20~40代の世代の間ですら、かなり安定志向が高いことが分かります。果たして60歳になった時に本人にとって満足な資産形成につながるのか、どのように個人をサポートすればいいのか、が大きな論点となっています。


足元では大型の制度改正を行うべく、国会に確定拠出年金法の改正法案が提出されました。ただ、昨年9月に衆議院は通過したのですが、成立まではいかなかったため、是非、今国会中に成立してほしい、と関係者は念じているところです。(2016年3月時点)


この改正には2つのポイントがあります。1つは、個人型DCの強化です。企業年金を提供するかは雇用主の一存によります。雇用主が「わが社にはそのような余裕はない」と判断すれば提供されないのです。したがって、全ての人に自助努力のチャンスを与えるという意味では、個人型DCを強化することが必要です。


ただ、現状は働き方のカテゴリーによって個人型DCの利用可否が変わってきます。そのため制度がわかりにくく、加入者が伸び悩むジレンマに陥っています。そこで、このルールを廃止し、基本的に誰でも利用可能にしようという動きが出ています。米国では個人退職勘定(IRA)という制度があり、誰でも利用できるものとしてDCが普及しています。


もう1つのポイントは、加入者が運用する際に、分散投資しやすいようにサポートを強化することです。現在は、投資メニューに淡々と商品が並んでおり、どの商品に何パーセント投資するかは個人任せの状態です。そうではなく、例えば、数ある運用商品の中でどれがDC運用のコアとなる商品かを加入者にわかりやすい形で示す。これは、米国をはじめ海外のDC制度ではよく取られているアプローチで、パソコンのデフォルト設定のように、「デフォルト商品」あるいは「デフォルトファンド」と呼ばれています。これによって多くの人が自分に適した分散投資を行えるようになれば、老後に向けた合理的な資産形成につながっていくはずです。


ただし、そもそも日本のDCは米国と比べても拠出限度額が小さいため、限度額をもっと増やし、自助努力とインセンティブをきちんと与えるといった改善も必要でしょう。


次に、DCの制度改正の話から離れて、中長期的に日本の私的年金を強化していくにあたり、絶対に外してはいけないポイントの1つに「カバー率の向上」があります。これは、サラリーマン、公務員など、現役世代を母数として、このうち何割の人が私的年金に入っているのか、という比率ですが、現状は寂しい状況です。カバー率100%の状態こそが理想像ですが、現状は遠く及んでいません。


また、私的年金を強化していくうえで気になるのは、「良い制度だから入りましょう」、と呼びかけたとしても、果たして何割の人が実際に反応するのか、という問題です。


一方、英国ではオートエンロールメント(自動加入措置)という制度を実施しています。強制ではないため公的年金とは一線を画していますが、基本的には雇用主に義務付ける形で、全ての従業員を何らかの適格な年金制度に、必ず1回は自動的に加入させるようにしています。もちろん、本人が「どうしても無理」と思った場合には制度から抜けることもできますが、自動的に加入させるところまで制度化しています。カバー率の向上を本気で目指すのであれば、日本もそのくらい大胆な発想が必要かもしれません。


そうは言っても日本も高齢化が進んでおり、公的な社会保障制度を支えるために、既に社会保険料も相当払い込んでいます。そのうえで、さらなる年金の強化を図ることは難しいことかもしれません。それでも、理想としてこうしたアイディアを検討していく必要があるのではないでしょうか。

ann
野村 亜紀子 氏
野村資本市場研究所 研究部 部長
野村 亜紀子 氏
野村資本市場研究所 研究部 部長